本記事は2007年12月14日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

(中断している間に忘れたので前回から読む)

小田嶋:この間の亀田騒動でね、俺、ボツになった原稿を思い出したんだよ。大毅じゃなくて興毅が世界チャンピオンを取った時に書いたんだけど。

:どんなものなの?

小田嶋:世界チャンピオンになったんだから、さる高貴なお方が催される秋の園遊会に呼べばいいんじゃないか、って。でもって、さるお方が「このたびは大変なあれでしたね」と声をかけると、亀田が「おお、頑張ったで。あんたも頑張れや」なんて返す会話を楽しめたら最高なんじゃなかろうか、みたいなこと。

:……。(再開早々絶句)

小田嶋:そうしたら、これはちょっと……という自主規制が某編集部から入っちゃって。もう少し表現をやわらげられませんかと言われたんだけど、そうすると意味ないじゃない? だから、じゃあ、いいや、また違う時にしようと思ってね。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「東京目白・花想容(かそうよう)」※当時は東京目白のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています)

:亀田大毅の騒動は結構面白かったね、あれは。でも、謝っちゃうんだな、と思った。俺は、謝らないでメキシコに行くのかな、と思ったんだけど。

小田嶋:あの騒動で俺が一番面白かったのは、彼らがどうだ、なんてことじゃない。彼ら親子に問題があるのはもうみんな分かっていたことなんだけど、それがエスカレートした時に、世間に謝るという異様な形になるんだ、ということだった。

:誰も被害を受けていないのにな。

小田嶋:俺、謝ってもらう必要なんてないんだけど。

:あれ(対内藤戦)、実況を聴いてた? 僕は聴いていなかった、というか、見もしなかったんだけど。

小田嶋:見てたよ。

:TBSは亀田の方を応援していたの?

小田嶋:そうだね。押しに押して。

:でも反則とかをしだした時はどうしたのかな?

小田嶋:だから、それをカバーする形で中継していたのよ。

:そうなんだ。それは格好悪いね、TBSも。

ガス抜き装置の本来の働きが暴走している?

小田嶋:その格好悪いことも含めて全部やっているんだと思うよ、結局。だって数字が取れちゃうわけだから。ただ、もっと長い目で見ると、短期の数字は取れはしても、次からスポンサーはおっかながって、もう乗らなくなるだろうな。

:だったら興行としても、かなり厳しいね。

小田嶋:そうそう。それからあと、TBSに対する信頼感がすごく毀損されたよね。

:TBSはボクシングじゃなくても、もう1回ああいうことが起きたら、スポットの料金が変わってきちゃうだろうな。TBSはもちろん高いランクにあるわけだけれども、TBS、もうだめだな、みたいな空気になってくると、価値が落ちるから、すごい減収につながっちゃうよ。

小田嶋:ネットの意見ってすごく偏った意見だから、それだけで判断はできないんだけど、それでもTBSに対するバッシングのひどさって、すさまじいものがあったね。たとえ一部の意見だとしても、ああいうことになっちゃった、というのは、とてもよくないような気がする。

:たださ、亀田だけでなく、沢尻エリカ、朝青龍と、テレビが倫理を背負った前提で、ある人物を叩く報道をするのは、かなり気持ち悪い。

小田嶋:それは俺、ワイドショーがなくなっちゃったことの影響なんじゃなかろうかという気がしているんだけど。

本来の芸能ワイドショーですね。

小田嶋:そうそう。本来の芸能人が出ている芸能ワイドショー。芸能人が不倫をしているとかいう、放っておけばいいようなプライバシーをほじくり返して、どういうことなんですか、なんて詰め寄っていた部分が、要するに人民裁判というか、ガス抜きだったわけでしょう。それが、不倫にしても、できちゃった婚にしても、みんなブログやファクスで発表するようになっちゃって。

ただ、芸能リポーターという人たちは30年前のままの顔ぶれですね。

小田嶋:彼らはしかも経年劣化して存在している。いまだに前忠(前田忠明)、梨元(勝)、みといせい子という。

:全員残っている、ということは、若い人の目指したい職業じゃないということだよね。

小田嶋:だから、今回の亀田みたいな特例が出た時に、スキャンダリズム需要で噴出、拡大していくのかな、と。ただ、視聴者の側に需要があるようにあまり思えないんだけどね。

今は、テレビの視聴率が高いということと、そこで世論が形成されるということの間に、ズレが生じているのではないでしょうか。昔、テレビの人気がもっとあった時代は、視聴率と世論の関係性ってあったのかもしれませんが、今、亀田戦の視聴率が高くても、じゃあ、みんなが亀田のことを好きかというと、そうではないですよね。

コラムニスト 小田嶋隆氏

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋:昔でいうと横山やすしと木村一八親子のように、学歴社会のアンチテーゼとして、ああいう親子って10年に一度ぐらい、必ず登場するんですよね。昔、パソコンがまだマイコンと呼ばれていた時期に、僕は『親子で楽しむパソピア7』という、メーカーのキャンペーンに乗っかったパソコンのガイド本を書いたことがあるんだけど。

パソピアというと東芝ですか。

小田嶋:そう、1983年ぐらいの話。その時に、やすしと一八という親子をキャラクターに持ってきたのね、キャンペーンでは。あれは、コンピュータというものは世間で思われているような難しいものではありませんよ、こんな教育のない親子でもやるものなんですよ、ということで会議を通したんだと思うんだ、たぶん。

:江崎玲於奈一家みたいなのではダメだということだな。

小田嶋:俺も亀田がうんぬんなんて言っているけれど、横山親子に乗っかった商売をしていたわけ。で、テレビ視聴率に関して言うと、視聴率というのが信用できるかどうかはともかく、それとは関係ないところで現場の需要でもってできているということは、すごくあるような気がしますね。

小田嶋先生、あなたまでが

BtoBということですか。

:どうだろうね。視聴率というのは他のあらゆる調査が、ある種信用できないのと同じように、あまり信用できないものなんだけど、だけど信用できるといえば、信用できるものなんだと思うんだよね。

小田嶋:一体どっちなんだ?

:いや、亀田と沢尻、朝青龍も含めて、彼らは一種、痛快なスターだったわけでしょう。そして、その痛快なスターが落ちていく様子というのを見たいと。という意味で、スターの墜落を見たいという需要には応えていたのではないかな。

そうですね、ピカレスク・ロマン。よく言えば。

小田嶋:まあ、マッチポンプじゃないけど、あらかじめ後で落とすつもりで上げていくという構図は、もうよく分かっちゃっている。

:だから、松坂とかイチローとか松井とかは生意気なスターじゃないからさ、ある意味、非常につまらないスターなわけだ。彼らは日本人の好きな形で、間違えたことを言わないし、思い上がったことも言わないし。ということは、彼らの墜落というのはあまり面白くもないんだよね、逆に。

そういえば小田嶋さんもご出演なさったんですよね。

:テレビ?

小田嶋:そうそう。

:何に。

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