2月7日付の“中国広播網(中国放送ネット)”は、長年にわたって子供を誘拐して売り飛ばしたり、売られた子供に物乞いをさせる拠点として地元で有名な安徽省阜陽市太和県宮集鎮の宮小村およびその周辺地区で、記者が実地調査を行った結果を報じて、中国社会に大きな衝撃を与えた。その調査結果を要約すると次の通りである。なお、この地域は“十年九荒(十年のうち九年は凶作)”と言われる中国でも有数な貧国地帯であることが、こうした状況を生み出した背景にある。

【1】村人によれば、この地域の乞食商売は100年の歴史があり、“香主(親方)”が“香(雇われた子供)”を使って“帯香(“香”を連れて旅に出て乞食をさせること)”が長年にわたって行われてきた。しかし、1933年頃から宮集鎮宮小村の村人が、周辺の村や近隣の県あるいは省で年端も行かない身体に障害のある子供を物色し、仕事があると親を騙して連れ出したり、金を払って借り出したりするようになった。これらの子供たちは身体に損傷を加えられた上で、親方に連れられて全国を回って物乞いをするのである<注2>

<注2>中国メディアは“帯香”と“帯郷”の2種類の書き方をしているが、“香”も“郷”も発音はxiangで声調も一声で同じ。現地の方言を発音が近い漢字で表したものと思われる。

【2】乞食商売は、早朝に朝食が終わると、子供たちはある決まった場所に運ばれて物乞いをさせられる。親方は子供たちの働き振りを遠くから監視し、夕方あるいは夜になると彼らを収容して回り、稼いだ金を集める。子供の稼ぎが一定の金額に届かないと、その子供は夕食抜きとなるだけでなく、ひどいせっかんを受けるのが常である。

【3】子供たちは“帯香”に出発する前の半月から1カ月を親方の家で過ごして物乞いの訓練を受けるが、夜は動物と同様に檻に入れられて親方に対する絶対服従を徹底的に教え込まれる。「お恵み」を少しでも多くもらうためには同情を引くことが重要であり、子供たちは脚を首に引っ掛けることを要求されるが、ほとんどの子供はこれができない。すると、親方は子供の脚を無理やりに首まで引っ張り上げるが、子供の肉体はこの虐待に耐え切れず、最後には深刻な障害を抱えることになる。また、親方の一部には、子供の手脚、身体、顔面を刃物で傷つけたり、硫酸で焼いてケロイドを残す虐待をする悪辣な者もいる。

「10日以内に自首するよう要求する」

【4】当初は宮小村で始まった“帯香”は既に周辺の地域にも広がってますます増大する傾向にあり、一部の村では“帯香”を行う親方の数が宮小村を上回っているという。この地域の農民にとっては、“帯香”を行うことは富裕への近道という認識であり、親方には少なからぬ村の幹部までもが含まれていると言われている。

 上記の報道を受けて、太和県共産党委員会および太和県政府は100人近い警官と60人以上の鎮・村の幹部を動員して宮集鎮の宮小村およびその周辺の村落を捜索し、“帯香”に関連する犯罪2件を摘発し、障害を持つ子供に物乞いをさせた容疑で5人を捕まえた。また、2月8日付で宮小村および周辺の村落では、「“帯香”は犯罪行為であり、“香主”は10日以内に自首するよう要求する」とのポスターが至るところに張り出されている。

 “帯香”が宮小村およびその周辺だけに限定されたものとは思えないが、今回の報道を契機にして、子供に物乞いをさせる乞食商売が少しでも減少し、将来的には根絶できるようになれば喜ばしい限りである。しかし、日本では「人攫い」という言葉は既に死語となって久しいが、中国では依然として「人攫い」に類するものが存在し、多数の子供たちがその犠牲者となっている。世界第2位の経済大国という表看板とこの現状はあまりにも対照的で不均衡だが、中国が真の意味で「世界の経済大国」となるには、この先にまだ相当に長い道程があることは間違いのない事実と言わざるを得ない。

(北村豊=住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト)

(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、住友商事株式会社 及び 株式会社 住友商事総合研究所の見解を示すものではありません。

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