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仕事のミッションを問い直す

「悪貨は良貨を駆逐する」という、あのグレシャムの法則ですか。

矢部:ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンという米国の学者が、それを組織に当てはめて唱えた「計画のグレシャムの法則」です。リーダーは日々の仕事に関する「業務的決定」と、将来に向けた「戦略的決定」の2つを考えなければならないのに、仕事に追われていると、どうしても今のことの方を優先してしまうんです。

 それは多忙だからでもあるし、成果がすぐに表れるので心地よいからでもあります。「将来のことも考えなければ」と頭をよぎっても、なかなか中期的なテーマには取り組めないんですね。

将来へと目を向けるには、どうすればいいのでしょうか。

矢部:OJDマネジメントでは、まず職場の現状を把握した後、リーダーに自職場の「管理構想」を描いてもらいます。管理構想とは、職場を革新し、継続的に高い成果を上げ続けるために、リーダーが中期的視点に立って自ら思い描く職場の将来ビジョンと、そこにいたる道筋を示すシナリオのことです。

 具体的には、従来の仕事のミッションについて、このままでいいのか、新しくやることは何か、何を続けて何をやめるべきかを問い直し、新たな職場課題を設定します。ここでは、不確実性の高い環境への見通しを立てながら仕事の仕組みや活動を意図的に組み換えていく「未来志向性」と、新しいやり方を積極的に試し、自らを変えていこうとする「革新志向性」がポイントになります。

「視野」「視点」「視座」を意識する

中期的な構想を考える「場」を意図的に設けるわけですね。

矢部:構想を描く際にもう1つ大事なのは、3つの「視」です。どのくらい幅広く見ているかという「視野」。どこを見ているかという「視点」。そしてどんな立場で見ているかという「視座」です。リーダーは常にこの3つを意識する必要があります。

 管理構想ができたら、今度はリーダー自身の行動と、人が育ち、チャレンジする職場風土を形成するための仕組み作りを通じて、職場を再設計していきます。

リーダー自身の行動で大事なことは何でしょうか。

矢部:まずはエンゲージメントです。リーダーと職場のメンバー、あるいはメンバー間の関係性やつながりを強化することが挙げられます。リーダーの関与は、メンバーの仕事への自信やモチベーションの向上につながるからです。

 私はこれまで多くの企業で組織マネジメントの変革に関わってきましたが、リーダーは比較的きちんとメンバーの仕事に関与しているように思います。コーチングはできているんです。

 メンバーが不満や不安を感じているのは、先が見えにくいということです。「リーダーは私たちの仕事に関与、配慮してくれているけれど、先が見えないから何をどうすればいいか分からない」といった声を聞くことがあります。

 だからこそ、管理構想をきちんと示すことが重要なんですね。明確な構想が示されれば、そこに向けて挑戦しようという職場風土も生まれてきます。