生産組織の構造の他にチームに貢献するインセンティブの強度を決定するもう1つ重要な要素は市場での競争環境である。もし市場での競争が極めて厳しいのであれば、チームとしての生産性の低下は直接的に企業の利益を大きく低下させるであろう。こういった状況では、個人に強いインセンティブを与えたとしても、全体の利益を損なうような行動は生じにくい。

 社内のライバルを蹴落としても、結果として企業が倒産してしまっては元も子もないからだ。国際政治の世界からビジネスの現場に至るまで、どのような状況においても「共通の敵」の存在は内部の結束を強める最大の要因である。そうした観点からは、外部組織との競争がほとんどない中央官庁において内部の出世競争が熾烈になるのは極めて自然なことといえる。

 ほとんどあらゆる状況で、労働者は複数の任務を担っており、その多くは本質的に両立し得ない。そのためこうした環境における一面的なインセンティブ体系は、労働者の努力配分を過度に歪め、全体を不利益な方向へと導く可能性を生み出すこととなる。特にいわゆる「成果主義」を導入する上で気を配る必要があるのは、目に見えやすい成果が「短期」で「個人」の貢献を反映する傾向が強いということである。

失敗の原因の多くは「バランスの欠如」

 本稿では、こういった成果主義の持つ特性に起因する「短期と長期」および「個人とチーム」の対立に焦点を当て、どのような状況で成果主義が負の効果を持つのかという点について簡単に議論した。目先の利益と長期の評判が対立関係にある時に,長期の評判のインセンティブを持たせることが困難なのであれば、目先の利益に対するインセンティブも弱めることが必要となる。同様に、チームワークに対するインセンティブが十分に与えられない環境では、個人の成果に対するインセンティブも弱めた方がよい。重要なのは、組織の目標を達成するために必要な任務とその重要性を明確にし、それらに対してバランスのとれたインセンティブを提供するということである。

 成果主義の失敗の多くは、実際にはこうしたインセンティブのバランスの欠如が背景にあるといえる。成果主義という概念自体の失敗ではなく、インセンティブ設計の失敗であるという認識は極めて重要である。

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