同期の同僚が華々しい成果を上げれば自分の出世の可能性は減少するし、反対に、同僚が出世街道から外れれば、自分の可能性は相対的に上昇する。こうした相対評価の性質から,苛烈すぎる出世競争は時に内部での足の引っ張り合いやライバルに対する非協力な態度といった明らかに非生産的な行動を生み出す要因となる。いきすぎた成果主義が引き起こすもう1つの弊害である。

 こうした組織内部におけるチームワークの欠如といった問題もマルチタスク問題の一種として捉えることが可能である。誰かが忙しいときに代わりに補ったり、全員が知っておくべき情報を共有したりという形での協力や助け合いは、程度の差こそあれ、どのような企業にとっても不可欠なものといえる。こうした観点からは、労働者の役割を「自分の任務を遂行すること」と「同僚の成果の手助けをする(または少なくとも妨害をしない)」という次元に分類することもできるであろう。

 しかし、ここでも再び「目に見えやすい成果」の問題が生じる。同僚の手助けのような黒子的な役割は、どうしても正確に測ることが難しいため、結局は個人の成果に力点が置かれがちとなるのである。個人の成果に偏ったインセンティブ体系は、自分の成果を犠牲にしてチームに貢献するインセンティブを低下させ、最悪の場合はお互いの成果を妨害しあうような非生産的な組織内での足の引っ張り合いを引き起こすことともなりかねない。

 要するに先ほどの「短期」の成果主義の問題と事の本質は同じである。個人の成果に過剰に依存したインセンティブ体系は,個人とチームのインセンティブのバランスを乱し、労働者の行動を望ましくない方向へと誘導する。そして当然ながら、この個人成果主義の弊害は、個人とチームのインセンティブが対立しやすい状況でより顕著となる。個人に与えられた仕事の境界線が明確で、自分の相対的な立場を上げるために他人を蹴落とすことが難しいような局面では、個人とチームの対立は生まれにくいので、個人成果主義の弊害は最小限に留められるであろう。しかし労働者間の連携が重要で、お互いを補完するような形で生産活動をしている職場では、過度の個人成果主義は全体のパフォーマンスを低下させる。

共通の敵は内部の結束を強めるが…

 特にスペシャリストが少なく、仕事の境界線が曖昧でチームワークを重視するといわれる日本の企業では、労働者間の「和を保つ」ことは生産性向上のために必須の要件である。成果主義が日本企業の風土にあわないということがもしあるとするならば、その一端はこうした生産組織の構造にあるといえよう。

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