これらの問題の背後にある共通の要因はいずれの場合も、任務を委託された代理人(ここでは労働者)が目標を適切に達成するためには、複数の任務をバランスよく遂行しなければならないという点である。狭義の成果主義の最大の問題は、目に見えやすい成果に着目するあまり、結果として全体的にバランスを欠いたインセンティブ体系となり、全体の目標とは異なる方向へ代理人の関心を誘導してしまうことにある。

 逆にいうと、それぞれの任務の重要性に応じてバランスよくインセンティブを与えるようなものこそが良い成果主義といえるのである。このことは、もし成果の観察が難しい重要な任務がある場合は、あえて成果の観察しやすい任務に対するインセンティブを弱めることで全体のバランスをとることが重要であるということを意味する。

代理人に物を売らせる方法:短期と長期の対立

 狭義の成果主義が陥りやすい問題点の1つは、目に見えやすい成果が往々にして目先の利益と強く結び付いているため、それが時として組織の長期の目標との対立を引き起こすことである。例えば営業における売り上げは目に見えやすい成果の代表例である。売り上げという成果に強く依存したインセンティブ体系は、営業担当者の関心を「たくさん売る」という方向へと誘導することができる。

 もし、企業の目標がとりあえず売れるだけ売るということであれば、企業の目標と合致した行動を営業担当者から引き出せる良い成果主義ということとなる。しかし通常、企業にとっての目標は売り上げという目先の利益を最大にすることだけではない。長期的にビジネスを展開するうえでは顧客の満足度を保ち企業の評判を守ることも同様に重要な目標の1つだからだ。すると営業担当者は、企業の「評判を守りつつ」もできる限り「たくさん売る」という少なくとも2つの任務を担っていることとなる。しかし問題なのは、多くの場合において、この2つの任務が相反するトレードオフの関係にあるという点だ。

 この2つの任務の間のトレードオフが深刻になる典型例は、企業の扱っている商品・サービスの質が顧客に俄かにはわからない、いわゆる「情報の非対称性」が存在する場合である。例えば、自社製品が顧客のニーズにマッチしていないことを営業担当者は知っているが、顧客には少なくとも購入の段階ではわからないといった状況がこれにあたる。ここでこの営業担当者が、長期の(企業や自身の)評判を守るためにこのことを顧客に正直に伝えるのか、それとも長期の評判と引き換えに目先の利益を選択するのか。この選択は、この営業担当者が直面する短期(目先の利益)と長期(評判を守る)のインセンティブの程度によって大きく影響を受ける。

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