イランの料理と言えば豆と肉と玉ねぎだ!

 普通の主婦であれ、プロの調理師であれ、イラン料理を作る人は何より先に玉ねぎを切り始めます。玉ねぎを切りながら「今日は何を作ろうか」と考えています。ただし、出来上がった料理は玉ねぎの匂いや味がするわけではありません。玉ねぎは肉の臭みを取るために使います。羊肉がメインであるイラン料理には欠かせない野菜なのです。

 たまねぎの次は豆です。ひよこまめ、レンズ豆など何十種の豆を使用します。日本人が魚の種類に詳しいのと同様に、イラン人は豆の種類にとても詳しいのです。日本で入手できる豆が限られているのは、在日イラン人にとって困ったことの一つになっています。

 3つ目に重要なのは、羊肉です。「羊肉には臭みがある」と言って日本人は避ける傾向にあります。けれども、イラン式で扱う羊肉には臭みがありません。もしかすると、筆者が羊肉を頻繁に食べているせいで、臭みがあるのが分からないのかもしれません。

 ケバブが伝わる前からイランにある伝統料理にアブグシュトがあります。ひよこまめと肉を煮て、ナンやお米と一緒に食べます。「アブ」は水で、「グシュト」は肉です。こう説明すると、極簡単で、センスのない料理を想像されるかもしれません。しかし、このアブグシュトは、誰でも作れるような料理ではありませんでした。

 美味しいアブグシュトを作るためには、肉の脂と水の量を上手に加減する必要があります。材料を鍋に入れたあと、臭みの原因となる灰汁をきれいに取って捨てる必要もあります。そして、長い時間にかけて煮ます。昔は煮るのに16時間かけていました。それほど、美味しくて、価値のある料理だったのです。現在も、アブグシュトを作るために6時間以上をかけるほど、イラン人に好まれています。

 しかし、美味しいアブグシュトを食べるためには外食することをお勧めします。アブグシュトを食べられる場所は「ディゼィー・サラ」とか「ソフレ・ハネ」と呼ばれています。一般のレストランに行っても、アブグシュトは食べられません。ソフレ・ハネでは1人前のアブグシュトを特別な容器で、長い時間かけて作ります。この1人前の容器は「ディゼィ」と呼ばれます。なので、料理の名前もアブグシュトではなく「ディゼィ」となっています。中でも、ハーブなどが入っている「ボズバシュ・ディゼィ」が大人気です。

「床に座る」こそイラン式の食べ方だ!

 イラン人もかつての日本人と同じく、床に座って食事します。食卓は使いません。ただし、現在は西洋の影響を受けて、床に座る文化はなくなりつつあります。

 ナンとお米は同時に並ぶので、どちらも主食です。ただし、朝食はナンだけを食べるのが主流です。ソフレ――食事の時に敷くシート―の上にナンのない朝食は想像もつきません。

 お米はインドから伝わった種類で、日本のお米とは違います。一般的には白米を炊き、それをサフランやメギで飾ります。さらに、鍋の底にナンや薄切りジャガイモを敷くことで美味しいお焦げを作ります。おかずの種類によって、お米をハーブやインゲンなどと混ぜることもあります。

次ページ お皿を手に持ってはダメ