およそ10年前にイランでお会いした日本語教師の日記を、最近、インターネットで読むことができました。そこで、いちばん記憶に残ったのは「イラン料理は今一つです。って俺に言ったのは誰だ!!」でした。

 恐らく、あの先生に「イラン料理は今一つ」と言ったのは私かもしれません。実は、多くのイラン人はイランの代表的な料理として「ケバブ」しか紹介しません。イラン料理を出すレストランはどこも、あらゆる種類のケバブを売っています。それで、外国人の頭には、イラン料理と言えばケバブだけが浮かんでしまいます。

 「イラン人はそもそも遊牧民で、家畜をする民族でした。天気の良い季節には農業をするものの、秋と冬にはより暖かい所に移動する生活をせざるを得ませんでした。そのため、時間のかかる料理をするのは難しい。肉を焼くだけで済む料理で済ましてもおかしくない」と思う人が居るかもしれません。しかし、それは事実と異なります。

ケバブは200年前に伝来

 まず、ケバブがイラン料理に加わったのは約200年前のことです。イランの当時の国王はケバブが大好きで、コーカサス地域からこの料理を導入しました。それ以来、イラン人は自分の好みに合わせ、ケバブを発達させてきました。現在、イランの代表的な料理として知られているケバブはイラン独自の個性を持ち、元のケバブとは味も見た目も異なるものになっています。

 さらに、イランの中でも、各民族が独自の作り方を持っています。なので、イランのレストランに行くとたくさんの種類のケバブがあります。その中で、最も有名なのは「クビデ」でしょう。羊肉と玉ねぎを刻み、よく混ぜます。味付けは塩で。これを、長さほぼ40センチ、幅5センチの串の真ん中に付け、火で焼きます。クビデはこのように極簡単に作れるので、イラン料理を代表する料理になりました。

 このほか、鶏肉や牛肉で作るケバブもあります。それぞれ異なる味がするので、毎日食べても飽きることがありません。

「手で食べる」は思い違い

 では、ケバブが伝わる前のイランの料理はどんなものだったのでしょう。イラン人の主食は何でしょう。

 料理の話をする前に、一つだけ言っておきたいことがあります。料理の話になると、「出来上がった料理はどうやって食べる?」という質問が頭に浮かぶと思います。この質問への答えを先に申し上げておきましょう。イランの料理は手で食べるものではありません。イラン人は、お米はスプーンで食べます。場合によって、おかずをナンで包んで食べることもあります。ナンはイラン人の食事に欠かせないものです。しかし、ナンを食べる=「手で食事する」ではありません。

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