小田嶋:商店街というか、飲み屋街が“表参道”となって一直線に正門につながっている。横にはほの暗いアーケード街が口を開けて。

:でも、正門はがっちり施錠してあるね。開け放たれていない。

小田嶋:開け放つとヘンな人がふらふらっと入ってきちゃうのよ。俺らが通っていたころは、朝から飲んでいるおじさんとか、ゆうべの名残の吐瀉物とかを、普通によけながら通っていたけどね。

それが小学校通学の光景だったんですか。

小田嶋:そう。ただ、その後「あまりにもまずいんじゃないか」、ということで、生徒はここを通らないように、ということが推奨されるようになりました。

赤羽のアーケード街を通ると、居酒屋さんが何軒も元気に営業中。
赤羽のアーケード街を通ると、居酒屋さんが何軒も元気に営業中。

赤羽を一躍、都内の人気エリアに押し上げた『東京都北区赤羽』には、全身が赤い色のおじさん、ド派手なデコ自転車を乗り回す「町の便利屋」、交番の前で昼寝する不審者、客の催促に逆切れして追い出すスナックのママなど、強烈な人々が続々と登場します。

小田嶋:あ、それも、この辺では結構当たり前よ。

:文京区では当たり前じゃないぞ。豊島区、板橋区でも当たり前じゃない。

中でも最強の赤羽キャラクターが、ホームレスのアーティスト、ペイティさんです(※詳しくは、清野とおるさんの漫画をどうぞ)。

小田嶋:ペイティさんね。よく赤羽駅で歌っていらっしゃいますけどね。あと、駅前の西友でもよくお見かけしますね。ペイティさん込みの風景は、俺の子どものころからの風物詩ですよね。これが世田谷区、杉並区のあたりだと、ホームレスのおばさんが食品売り場を歩くのってどうよ、という話が湧き起こるのかもしれないけれど、赤羽ではそういうことも、普通にありになっていますね。

日常の一コマなんですか。

小田嶋:そう。日常なの。俺らにしてみれば、わざわざ驚くほどのものではないし、描写するほどのものでもない。

一同:(感心)

小学校の裏門に回り、まだ昼を迎えていない繁華街を、あてもなくぶらぶらしております。目に入る店はどこも商売っ気がなく、それでいて何かあやしい感じがするのはなぜかしら。

:赤羽の駅前にアーケードの商店街があるでしょう。

小田嶋:「LaLaガーデン」ね。

:そうそう、大学の時は、その「LaLaガーデン」を通って、よくお前の家にいったんだよ。おふくろさんに飯を食わせてもらいにさ。

小田嶋:だったら俺の実家の前を通ろう。それは面白いかもしれない。何年ぶりになるかな?

:40年にはなっていないけど、30年ぶりとか、そんなもんだよ、きっと。俺は「オダジマ木材店」のころしか知らない。ほら、家の前が木工場で後ろが住まいだったじゃない?

小田嶋:そうそう。でも、ずいぶん前に建て替えちゃったんだけどね。おやじが死んでから。

:お前はね、おやじさんの葬儀でも悲しそうな顔をしていなかったよね。俺はかなり悲しんだんだけどね。いや、懐かしいな。

小田嶋さんのご母堂にお会いする

ということで、小田嶋さんの実家をいきなり訪問します。岡さんがなんのためらいもなく流れるようにインターフォンを押しました。

小田嶋さん母:はい、どなたですか?

:あ、こんにちは、タカシです~。

小田嶋さん母:は?(ちょっと不審気)

小田嶋:あ、俺です、俺、俺、タカシです。

小田嶋さん母:え?

小田嶋:今のは岡だよ、岡。高校、大学ん時の。

小田嶋さん母:あらあらあら(と玄関先に現れる)。

小田嶋:いや、今日ね、仕事のみなさんとこっちに来て。

一同:こんにちは、初めまして。小田嶋さんに大変お世話になっております!(本当は、「大変お世話をしているんですよ」と思いながら、一同礼)

小田嶋さん母:あらあらあら。

:ご無沙汰してます。

小田嶋:これ、岡だよ。

小田嶋さん母:あらあらあら。

小田嶋:近くに来たから、ちょっと挨拶がてら寄ってみました。じゃ、仕事だから。

小田嶋さん母:まあまあまあ、みなさん家におあがりになって、お茶でもいかがですか。何のお構いもできませんけど。

一同:いやいや、どうぞお構いなく。

ということで、小田嶋さんのお母さん、突然失礼しました。小田嶋さんのお母さんは、明るく人情味にあふれ、足腰も頭もシャキっとしていて、とてもすてきな方でした。

次ページ 北区のブロンクス感