:それは正確に言うと、会社に入ってからのことでした。電通では全社員名簿というのが配られるんだけど、その住所に「荘」と付いているやつなんて、誰もいなかった。それで俺はすぐに住所変更の届けを出して、「番地は変わらないんですけど」と言いながら、第二天神荘を「コーポテンジン2」にした。

架空の名前を社員名簿に掲載……。

:そうしたら、ちゃんと手紙が届くのね。しゃれが分かっている郵便屋さんだなあ、って。

小田嶋:お前、引っ越したのかと聞いたら、「いや、同じところだよ」って。俺、しばらく笑ったことを覚えているよ。

しかし、よくも、そんな小技を次々と繰り出せますね。

:ははは。意外とまめな性質なんです。

当時、冷蔵庫はあったんですか。

:冷蔵庫は中古屋で買いました。もちろん汚くて古いんだけど、べらぼうに安いからさ。ベッドとか机とか、こたつとか布団とか、今だったら粗大ごみに出すようなものですよ。でも、当時はそういうものは割とあって、全部中古で調達できたんだよね。

いろいろどうでもいい。だって生きなきゃならない

今も古道具屋って、流行ですよ。

:それは、目黒通りにあるようなビンテージとかアンティークとか言われているような類のものでしょう。そういうんじゃないんだよ。質流れとか、そういうやつ。質流れもよく行ったな。炊飯器なんか質流れで十分、間に合った。

小田嶋:あれ、だいたい質屋の隣にあって。だから質屋の販売部門ですよね。質流れって、要するに炊飯器を質屋に渡して2万円借りると、返せないから取られちゃう。そうすると、質屋が隣でそれを売る。

:3万円の価値のあるもので1万円を貸して1万2000円で売るわけだから、圧倒的に安くなるんですね。質で引き取った価格に2割ぐらい乗っけるだけだからさ。

「ヤフオク!」の原点がここに。

:ただ、気持ち悪いといえば気持ち悪いけど。もう布団から炊飯器から全部、貧乏が染み付いていて(笑)。

小田嶋:炊飯器はまだいいけど、俺は布団は嫌だ。

:でも、あの状況じゃ、新品の布団なんて、とても買えないわけよ。僕は布団も、枕も買いましたよね。

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