小田嶋:この某さつき荘というような名前のところで、俺はしばらく足を取られていた。

なるほど。

:女がいたということ? 簡単に言うと。

小田嶋:早い話が。

:男ではないよね。

小田嶋:いや、あんまりいいもんじゃないですよ。ちょっとつまずいていた、と。それも、あんまり色っぽい話じゃなくて、どっちかというと、どす黒くて嫌な感じ。

:今もあるのかな、そこは。

小田嶋:いえ、自転車で通って、すでにないことを発見しました。もうね、何かね、コンビニかになっちゃっていてね。

小料理屋とラブホテルが並ぶ大塚の川筋をさらに進むと、不忍通りをくぐって、茗荷谷に至り、そこで川の名前は「矢端川」から、「小石川」に変わります。

小田嶋:私にとって矢端川という名前は、「ヤバい」の語源として確定ですね。

:っていうか、何? 千早町から小石川につながるの?

はい。岡少年の運命を暗示したかのように。

谷筋を生きる、よそ者の人生

:恥ずかしながら、小石川というのが川の名前だったということを、初めて知りましたけど、千早町から小石川につながるとは思ってもみなかった。何かそれ、つまらない青春小説みたいな展開じゃないか。

その小石川の川道は後楽園の脇を抜け、水道橋で神田川に合流。神田川をたどれば言わずとしれた早稲田大学があります。

:何という……ということは、千早町で育って小石川高校から早稲田大学というのは自然の流れだったんだね。摂理と言ってもいいぐらいの。

千早町から小石川の間には、目白の山があって、本郷台地があります。山、谷、山、谷って、お2人それぞれの人生の起伏を反映したかのように。

:清野さん、ジオラマ作ってよ。よく郷土資料館なんかにあるでしょう。

小田嶋:我々は、その山の方じゃなくて、谷筋の川に沿って青春を過ごしたということで。

ジオラマを作ったら、人生が立体的に一目瞭然ですね。

:立体的に見ると、あきらかに山の方じゃない、川筋組だね。

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