「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)

 本記事は2015年1月6日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

 新年、あけましておめでとうございます。

 2020年の東京オリンピック開催に向かって、東京では需要を当て込んだ大型再開発が始動中です。一方、「人生の諸問題」チームは、そんなトレンドとはまったーく無関係に、今日もマイナーな思い出をたどる町歩き。小石川早稲田と続く今回は、マイナーな中でも、さらにマイナーな千早町だ! って、どこ?

追憶の中を、いざ、歩かん。

前シーズンの「早稲田編」で起点にした目白から、早稲田方向とは逆の北北西に進路を取ると、そこが岡さんの原点、豊島区千早町です。

:最初に言っておくけど、目白駅は豊島区ですからね。これ、大事なポイントなんですよ。

小田嶋:文京区じゃないんだ。

:お前、わざと言っているだろう。豊島区はどこにいても、心の中に目白ブランドがあるの。東京第4学区の中でも、板橋区と小田嶋の北区と一緒のジャンルにされるのは嫌なの。むしろ僕たちは文京区と組みたいのよ。

※東京第4学区:かつての都立高校の学校群でいう、文京区、板橋区、豊島区、北区のこと。この言葉が持つブランド感については、こちらを。

小田嶋:豊島区というのは、今、『地方消滅』でも、ちょっと話題になっているよね。

:『地方消滅』って何?

※『地方消滅』(中公新書):岩手県知事、総務相を歴任した増田寛也の編著。人口減少が進む日本で、2010年から40年までの間に出産可能性の高い「20~39歳の女性人口」が5割以下に減少する自治体を「消滅可能性都市」として推計。現在の半数にあたる896自治体があてはまるという事実が、世に衝撃を与えた。同推計によると、東京都豊島区は23区内で最も消滅可能性の高い位置にいる。

:つまり高齢者が多いってこと?

小田嶋:厳密に言うと、高齢者が多いというより、子どもを産む女性の数が激減していって、やがて消滅するかもしれない区、ということなんだけど。

:嫌なことを言うね。

ちなみに小田嶋さんの原点、北区は同リスト順でいうと、足立区、杉並区、渋谷区、中野区などが上に来ていて、豊島区ほど激しく消滅可能性は言われていません。

:ひどいじゃないか。

でも豊島区の歴史は古いんですよ。15世紀に太田道灌が江戸を作る以前は、豊島氏という豪族がここにいて、その豊島氏を道灌が倒して江戸を制定したということですから。

小田嶋:確かに俺んとこの赤羽あたりも元は豊島氏の土地で、彼らと戦った時に、道灌が築城した稲付城跡が今もあるよ。

:なんだ、豊島区は歴史的に言って、江戸よりも由緒のあるところなんじゃないか。それ、もっと早く知りたかったな。どうも文京区に負けているような気がしていたから。

目白駅から千早町を目指す場合、山手線の線路沿いに歩くと、自由学園明日館があるあたりまでは品がいい住宅街です。

小田嶋:だいたいヨネクラボクシングジムが分水嶺になっているでしょう。あそこまでが目白圏で、そこから先が池袋圏。ヨネクラの先をちょっといくと、品のいい住宅街からいきなりラブホテル群の裏側に出る。そのまま雑多で闇市な西池袋の中へ突入して、北へ抜けてマルイの先を行くと、風俗と本格エスニックと現地中華の街という、正真正銘の豊島区になる。

:池袋圏には立教大学があるぞ。泉麻人が昔のエッセイで書いていたけど、池袋が埼玉県の飛び地にならないで済んでいるのは、立教大学のキャンパスが堰き止めているからなんだ、と。

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