オマケ編、始まります。まずは小田嶋隆の「青春の5編」の復習から。

○小田嶋隆の「青春の5編」

熱いトタン屋根の猫1958年アメリカ
監督:リチャード・ブルックス
出演:エリザベス・テイラー、ポール・ニューマン

恐竜百万年1966年イギリス、アメリカ
監督:ドン・チャフィ 出演:ラクエル・ウェルチ

家族ゲーム1983年日本
監督:森田芳光 出演:松田優作、伊丹十三

ショーシャンクの空に1994年アメリカ
原作:スティーヴン・キング 監督:フランク・ダラボン
出演:ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン

トレインスポッティング1996年イギリス
監督:ダニー・ボイル 出演:ユアン・マクレガー

小田嶋:俺は教科書的にいい映画を並べたという感じですよ。ただ、ここに入れた「恐竜百万年」ね、これだけがちょっと毛色が違っていましてね。

それで?

小田嶋:「恐竜百万年」は、そんな素晴らしい映画じゃないんだけれども、ラクエル・ウェルチのセクシーさ、そのハリウッド流のぞんざいな性的アイコンが9歳のガキに刻印されたということで、思い出深い映画になっているということを言いたかったんですね。

なかなか雑なアイコンですね。

小田嶋:そうなんです。セクシーって、ぞんざいなものなんですよ。で、ハリウッドのおやじが、「こういうのがセクシーだろう」といって作ったようないい加減なものを、「そうですね、これがセクシーなんですね」と、極東のガキがそのまま思い込んじゃうことの悲しさがそこにあるわけで。だから、その乱暴な刻印のおかげで、俺はちょっと以後の人生を苦労したな、という感があり。

苦労って。

小田嶋:だってセクシーって理屈が通っているもんじゃないでしょう。セクシーって必ずしも知的なもんでもないし、なぜか理由は説明できないんだけど、俺にとってのセクシーはどうやらこういうことらしい、ということに後年気が付くわけですよ。で、いったい俺のセクシーって、どこから来ているんだろうと、たどっていくと、うわ、「恐竜百万年」って。

それはびっくりですね。

小田嶋:そう、ボン、キュッ、ボンの、こういうセクシーだったかという、正体の割れたときのがっかり感がさ。もう少し利口そうな女優さんでもいいんじゃないの、というほどの、あれだったんですよ。

岡さんはご覧になりましたか。

:何ですか。

「恐竜百万年」です。

:そんなのは観てないです。

この会話を聞いてもいなかったですね。

小田嶋:でもさ、セクシーの刻印って小さいころに押されているでしょう。まだ性に目覚める前に押されていると思うのよ、おそらく。

:それはそうかもしれないけれど。

小田嶋:俺は、それが調査の結果、分かった。

:だって「恐竜百万年」って、エッチな女の子が出てくる映画だったっけ?

小田嶋:出てこないけど、一応大人の視聴者を想定して、際どい毛皮のビキニを着たラクエル・ウェルチが出てくるわけ。その見えそうで見えないビキニの格好で、歩いたり、動き回ったり、取っ組み合いをしたりしているのが、ポイントポイントで出て、それの間に恐竜も出てくるわけだよ。

:別の映画のポスターで何か、そういうのはあったよな。何の映画だか覚えてないけど。

編集Y:「エマニエル夫人」とかじゃないですか。籐椅子の上で足を高々と組んだりしていますよ。

小田嶋:そうそう、それで籐椅子にも弱かったりするんだよ。くだらないんだよ。

原始人ビキニによる文化侵略

:それでいうなら、僕はその当時、一緒に住んでいたおじさんが隠し持っていた「アラビアンナイト」かもしれない。何巻もあったんだけど、おじさんは押し入れの中に隠していて、俺はそれをひそかに読んでいた。

こちらは映画じゃなくて活字で。

:本だよ、本。確かにそういう意味じゃ、僕は活字だった。

男の子のピークは17歳で、セクシーの烙印は10歳でみんな止まっちゃっているということですか。

小田嶋:あとは余生みたいなもんです。

編集Y:(スマホでラクエル・ウェルチの画像を探し出す)出ました、これですね?)

小田嶋:そうそう。これを日本で追い求めたりすると、その後の人生が大変だという。例えばこれが原節子だったり、天地真理だったり、キャンディーズだったり、ピンク・レディーだったり、何でもいいんだけど、そういうものだと何か収まりようはあると思うんだけど、ラクエル・ウェルチは苦労しますよ。だから、結局、米軍の侵略ってこういうところで行われているんだなって。

:・・・。

小田嶋:彼らの侵略は頭の中にも及んでいたわけです。だから俺が若干、反米的な思想を持っていたりするのは、戦後、チョコレートじゃなく、ラクエル・ウェルチというヘンなものを俺の頭に植え込みやがって、というところのものが、かなりあるのではないかと。

「恐竜百万年」は、実は高度な文化侵略装置だった、と。

小田嶋:「恐竜百万年」はもう日米問題ですよ。あれは内なる普天間問題、性の安全保障問題であり、

はいはい、面白く拝聴しました。

小田嶋:あっ・・・。

 2009年からの長きに渡った「人生の諸問題・シーズン3」はこれにてひとまず終了です。しばらくお休みをいただいた後、新たな年から「シーズン4」が始められるよう、関係者一同、努めます。みなさま、よいお年をお迎えください。

(「人生の諸問題 令和リターンズ」はこちら 再公開記事のリストはこちらの記事の最後のページにございます)


「人生の諸問題」は4冊の単行本になっています。刊行順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』(以上講談社刊)『人生の諸問題 五十路越え』(弊社刊)

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