内田:確かに武道家同士で飲むと、関節決めたりするかもしれません。お酒が入ってくると、だんだん痛みを感じなくなってくるので、エスカレートすることはあります。

小田嶋:ところが、昨日はみなさんとても紳士的で、関節を決められることもなかった。それで、武道家の方たちに対する偏見がやわらいだんです。

内田:僕は飲んでも関節を決めたりしませんよ。基本的に文科系の武道家なので。

小田嶋:そうですね。内田先生にはお酒の席で関節を決められたことがまだありません。

ヒップホップダンスの横で武道ができるか!

内田:道場を作ってみてわかったのは、「場」の持つ空気の大切さですね。初めてお稽古した日は、最初はみんな借りてきた猫のように遠慮していたんですが、2時間もすると不思議な空気に変わるんですよ。しっくりくるというか…。

小田嶋:場の持つ力というのはあるでしょうね。

内田:これまで、公共施設の道場などを借りて20年くらいやってきたのですが、武道以外のものにも使われていて、いまいちしっくりこなかった。カーテン一枚隔てた向こうでは、ヒップホップとかジャズダンスとかをやっている。

小田嶋:集中できそうにないですね。

内田:こっち側で、「日本古来の知恵と命の力を高めていくために……」という話をしているのに、あっち側でラップの音楽で、フンジャカフンジャカとかやられてごらんなさい。そういうこともあって、自分たち専用の道場ができたというのは、とてもうれしかった。

小田嶋:音楽の世界でも、場がとても重要という考え方があるそうです。コンサートする場所のことを「ハコ」と言いますが、マクシズ・カンサス・シティとか、フィルモア・イーストとか、マディソン・スクエア・ガーデンといった場所が先にあって、そこに主演する人たちが新しい音楽を作っていく。その新しい音楽のジャンルというのは後付けなんだという考え方です。

内田:ミラノのスカラ座とか、パリのオペラ座とか、まさにそうでしょうね。300年にわたって物語が蓄積している。日本には武道専用の武道場がないんです。日本武道館と言っても、ライブをやりますから。

小田嶋:ビートルズもやりました。

内田:僕も、ポール・マッカートニーやRCサクセションを見に行きました。例えば、ライブの後で演武会をやると、空気がちょっとヘンなんです。

小田嶋:「場」で思い出しましたが、フェイスブックって、「場」なんですよね。

内田:だいぶ話が飛びましたね。

小田嶋:ちゃんと着地するはずです。誰かがフェイスブックについて書いたコラムで読んだのですが、アメリカでは企業の重役とか市長さんといった地位のある人は、みんな誕生日パーティーをする。それは、誕生日を祝ってほしいからではなくて、自分の知人にほかの人と知り合う場を提供するためなんだと。地位のある人は、そういった社会的な役割を担っている。地域コミュニティーのつながりが薄いアメリカでは、そういった場が必要で、フェイスブックはその最新版だというような話です。

内田:なるほど。

小田嶋:凱風館は、フェイスブックのような交流ができる場として成立しているんです。この話を2次会でスピーチを頼まれたらしようと思っていたのですが、頼まれたのは乾杯の音頭だったので、長い話はできないなと思ってやめました。

内田:凱風館では、若い人に「本当にすごい人」に直に会ってほしいという気持ちもあるんです。若いうちに本当にすごい人に会うと、それまで偉い人だと思っていたのは、実はたいしたことないということに気づく。身近にいた威張っていたあの人は、たいした人じゃなかったんだと。ただ威張っているだけの人は威圧的で上から目線ですが、本当に偉い人は上しか見ていません。

「内田先生にほめていただけたら、また半年生きていけます」

小田嶋:本当にすごいオーラのある人は、お会いして名刺交換するだけで、自分がレベルアップしたような気になります。

内田:小田嶋さんは普段、パーティーとか出ないでしょ。

小田嶋:出ませんね。内田先生のパーティーに出るのは、ほめていただけるからです。ちょっとほめていただくだけで、半年くらい生きていけます。

内田:最後に、小田嶋さんの今後の出版計画をお聞かせください。

小田嶋:日経ビジネスオンライの連載「ア・ピース・オブ・警句」から、『地雷を踏む勇気』と『その「正義」があぶない。』の2冊が出まして、その後は、ミシマ社から、『コラム道(仮)』が年内に出るはずです。

内田:出るはず、と言うと、もう脱稿したのですか?

小田嶋:いえ、まだなんですけれども…。体操の床の演技で言えば、あと2回転半ひねりして、着地し、パッと両手をあげてポーズをとるだけですね。

内田:僕は、『呪いの時代』が新潮社から出て、年内はこれが最後です。これは『最終講義』と同じくらい力を入れたものです。実は僕もミシマ社の原稿が一冊分あるのですが、小田嶋さんが年内に出すということは、僕のは来年でいいのかな。

小田嶋:私がしんがりの役目を引き受けましょう。

(この対談は、11月15日にブックファースト新宿店で行われたものをまとめたものです)

「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』~世間に転がる意味不明」ついに単行本化!

 小田嶋さんの大人気コラム「ア・ピース・オブ・警句」が、単行本になりました。
 連載の中から、コラムを選りすぐり、2冊の本に分けて収録しています。1冊は『地雷を踏む勇気~人生のとるにたらない警句』、もう1冊は『その「正義」があぶない。』。もちろん、2冊の内容は別物です。あなたのお気に入りのあのコラムはどっちに入っている?!
 小田嶋さんの名文、名ジョークを、ぜひ、お手にとって味わってください。

(「人生の諸問題 令和リターンズ」はこちら 再公開記事のリストはこちらの記事の最後のページにございます)

■変更履歴
本文中「ONE PICE」は、「ONE PIECE」の誤りでした。お詫びして訂正します。[2011/12/22 18:21]

「人生の諸問題」は4冊の単行本になっています。刊行順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』(以上講談社刊)『人生の諸問題 五十路越え』(弊社刊)

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