こうして高齢者のスポーツとしての地位を確立したゲートボールだが、なぜその後、衰退したのか。そこには、いくつかの理由があった。

口論の末に殺人事件も

 まず大きいのが、平均寿命とともに、自立した生活を送ることができる期間を示す「健康寿命」が延びた点だ。

 現在の統計では健康寿命が男女ともに70歳を超えている。そのため、定年後に体力を必要としないゲートボールへと移行せずに、ゴルフやテニスなど現役時代の趣味をそのまま続ける高齢者が増加。相対的にゲートボールの競技人口が減少した。ゲートボールは高齢者のスポーツという固定観念もマイナスに作用し、元気な高齢者から敬遠された。

 さらに、高齢者向けの娯楽が多様化し、様々な選択肢が生まれた点も大きい。最近では、高齢者が操作しやすいゲーム機が相次いで開発され、平日の昼間にゲームセンターに集まる高齢者らが登場。現役時代に知り合った仲間らと碁盤を囲み続ける者もいる。

 高齢者にとっては定年後に老人会や自治会に所属し、彼らが推奨するゲートボールのチームに加わることが「自然の流れ」だったのが、様々な場で独自のコミュニティーを持つことができるようになり、必要性が薄れたのだ。

 高齢者のゲートボール離れには、別の見方もある。ゲートボールの特徴である「チームプレー」が、近年の高齢者から厭われたというものだ。

 先に述べたように、ゲートボールは5人対5人のチーム対抗形式で争われる。そのため、戦術の違いなどからチームメート同士が口論になり、人間関係にひびが入ることも珍しくなかった。過去にはゲートボールの争いをきっかけに殺人事件が起きた事例もあったという。

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