:そうそう、朝焼けの停車場。

小田嶋:大笑いでしょう。でも、この当時のイメージ上のいい女って、これなんだよね。

ホテルの窓越しに都会を見下ろして、タバコに火をつけて、そっと渡してくれたんだけど、お互いに寂しさを打ち明けられなかった、と。

:ただ当時の状況では、忘れてならないことがある。だいたい昔は、女の子とここで別れたら二度と会えないもんだ、という切実さがあった。メールも携帯もないし、電話番号も分からない。それで実際に二度と会えない。

小田嶋:そういう行きずり感はある。

:当時はフェイスブックもない。考えてみれば、学校の子からして全員が行きずりだよね。あの人がどういう人なのかなんて、全く分からない。

小田嶋:だから出会いなんて言ってはいるけれど、本当はナンパなのね。それにしても、バスを追いかけて電話番号を叫んでいるってすごいよ。

当時はハマショーがいいとは人に言えなかった

:これね、自分の番号を言った方がいいんですよ。相手から聞くとウソだったりするから。俺はそれで何度か痛い目に遭っているんだよね(笑)。

いや、家の電話番号なんて、普通は外じゃ言わないですよ。

:言わないよね。だから渡すしかない。ということは、結構俺たちはこの歌に共感していたんだよ。

小田嶋:それで、こいつの声がまた何というか、青春の声をしているでしょう。ちょっと甲高くて、ハスキーボイスなのよ。

:でも、当時は、浜田省吾はいいな、なんて人になかなか言えなかった。だから僕もマージャンのときに、半分冗談みたいにかけることしかできない。だって、みんなの前ではチャールズ・ミンガスとか聴いていることになっているから。「直立猿人」はいいよね、なーんて言いながら。

小田嶋:この曲は「ラブ・トレイン」というアルバムの中に入っているんだけど、浜田省吾はこの後にもっとカッコいい音楽をやるようになって、いろいろ活躍するようになった。もしかしたら「恋に気づいて」は、ハマショーの中では黒歴史かもしれない(笑)。

いや、これはいい曲じゃないですか。いい曲ですよ。

小田嶋:そうなんだよ。実はいい曲でしょう。いわゆるポップソングの出来上がり方の基本を全部押さえていて。

:歌詞もいい。切ないよね。

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