小田嶋:俺は、小学校のときにあの歌を歌わされるのが恥ずかしかった。「そんなーにしてーまでー」。

:歌わされるって、誰に歌わされたの。

小田嶋:だって歌わされなかった? 「君がー」「ゆくー道はー」「果てしーなく」「遠いー」とかってさ。

なのにーなぜー。

小田嶋:勝手に行けよって、俺は思っていた。それとね、ロシア民謡。「ちぎれ雲は流れ流れー」みたいなやつ。「ステンカラージン」とかね。

:というか、ロシア民謡を日本の男の子に教えても意味ないよ。全然イメージできないもん。

小田嶋:なぜかロシア民謡というのが、ありました。

:僕の先生は、「若者たち」は歌っていませんよ。普通の音楽の教科書の「春の小川」とかですよ。

小田嶋:だから赤羽のあたりは、やっぱり教師がちょっと左がかっていたんだな。

:僕の小学校のときに合奏コンクールというのがあって、体が一番でかいという理由だけで、ウッドベースの担当になったの。

小田嶋:ああ、こういうやつね(抱きかかえるしぐさ)。あれ、失敗しても分かりにくいんだけど、ベースが間違えると音楽にならないでしょう。

そこでなぜ弾いた、俺!

:ウッドベース担当なんて1人しかいないでしょう。それでウッドベースが弾ける小学生なんて、普通はいないんだよ。それで、コンクールの日に、まったくのでたらめを弾いた。めちゃくちゃ怒られたんだよ。

弾かなきゃいいのに。

:そう。むしろ弾かなきゃよかったんだよ。

でも、ウッドベースなんていう楽器が、小学校にあったんですね。

:あった、あった。僕はそのとき府中市にいたんですよ。そのころの府中市っていうのは、東京のベッドタウン化がどんどん進んでいる時期で、サラリーマンたちが家を建てて引っ越してくるもんだから、毎学期、子供が増えちゃうわけ。2クラスだったのが、いつの間にか3クラスになったぞ、みたいな増え方だったのね。

今と逆ですね。

:府中市というのは、サントリーの工場があって、東芝の工場があって、東京競馬場があるのよ。そうすると、公立の学校にすごくお金がつぎ込まれて、プラネタリウム付きの学校とかが出てくるわけ。

小田嶋:「シムシティ」じゃん、それ。

:さらに府中市には刑務所もあるでしょう。僕らの中学校は、刑務所の近くにあったの。だからさらにお金が掛けられて、公立の学校なのに、野球部専用のグラウンドがあったんです。そこには、野球部しか使わないダイヤモンドがあった。すごくない?

PL学園みたいだったんですね。

:それで話は1977年の「岸辺のアルバム」に続く。「岸辺のアルバム」、これは家族の崩壊の話ですよね。みんなで暮らしているんだけど、本当はばらばらだという。お母さんが不倫していたりね。

小田嶋:そうそう。

家族崩壊モノが大好きという小田嶋さんにもぴったりじゃないですか。

小田嶋:いや、これは、家族っぽすぎて見ていられなかった。八千草薫のお母さん、杉浦直樹のお父さん、それで息子が国広富之で、そのお姉さんの女子大生が中田喜子。

:お母さんが不倫している相手が竹脇無我で。

小田嶋:そうそう、息子の先生が津川雅彦…やっぱり見ているんだな、俺。

(どんどん山なし、落ちなし、意味なし化していく「諸問題」、続きます)

おじさんたちの青春の光と影は、意外に面白い
いつだって僕たちは途上にいる』(岡康道×小田嶋隆)

 日経ビジネスオンラインきっての長寿コンテンツ、ひいては小田嶋隆を“再び”世に出した当連載(自慢)が、みたび単行本になりました。五十路を越えたお二人が、青春時代を振り返る、かと思えば、現世の悩みにドリフトし、すべりにすべって横道に逸れていく、そこにキヨノ姐さんがぐさっとブレーキ。暑くて眠れない夜に、ページを開けばくすくす笑いと共に、気持ちがちょっと楽になる(かと思います)。効能は是非、購入してお確かめくださいませ(Y)

(「人生の諸問題 令和リターンズ」はこちら 再公開記事のリストはこちらの記事の最後のページにございます)


「人生の諸問題」は4冊の単行本になっています。刊行順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』(以上講談社刊)『人生の諸問題 五十路越え』(弊社刊)

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