小田嶋:溶融していたのを無視したらこれは大変なことだし、溶融にいつまでも気が付かないのはばかだし、2カ月後に、どうやらあれは溶融だったらしい。数字をよく見たら分かりました、と言ってみる。その際、決してメルトダウンという言葉を使ってはいけない、って。
岡:「グッド・シェパード」の中に、ソ連からのスパイ容疑で拷問を受けて死んじゃった男がいたじゃない?
小田嶋:LSDを投与されちゃったやつね。錯乱して、「ソ連の脅威なんかは、本当はありはしない。あの国は死んでいるんだっ」と叫びながら飛び降りて死んじゃったでしょう。
岡:あいつ、濡れ衣だったわけだよね。
小田嶋:ということですよね。
岡:なのに、エドワードたちからあんなに酷い仕打ちをされたわけだよね。
小田嶋:あの映画の中では、あのセリフが一番重要なものなんだよね、きっと。ソ連の脅威がある、ということでもって、アメリカのエリートたちは自分らを食いつながせているんだ、と。
岡:実際に冷戦時代にソ連が脅威だったのかというと、今から見ればぼろぼろな国だったわけだからさ。本当は脅威もへったくれも、なかったのかもしれない。
小田嶋:だから東電によるCO2仮説みたいな。CO2で地球が温暖化するぞ、ということを言いながら、原子力はその点クリーンエネルギーです、みたいなことを言っているのと、若干近いようなさ。
岡:映画の中で、バッタだかイナゴだかを調達したおやじがいたでしょう。
小田嶋:いましたね。
岡:思わせぶりなんだよ。暗い部屋でエドワードに向かって、ぱこん、なんてバッタの箱をゆっくり開けちゃったりしてさ。
小田嶋:はいはい、あのシーンね。
岡:バッタを農場にばらまいて、ソ連が後ろについているコーヒー園をだめにする、というエピソード。
小田嶋:俺は、あのあたり、もう筋が分からなくなっていた。
岡:えっ、何で。
小田嶋:だって長すぎて。
中二病はオトコに強くて女に弱い
岡:違うよ、あのシーンで、ああ、世界秩序だの自由社会だの何だかんだいっても、結局、経済戦争なんだな、ということが分かるんですよ。CIAとはいえ、そこにあるのは国家の正義じゃなくて、カネじゃないか、というリアリティが明かされるんですよ。
一同:なるほど~。
小田嶋:そうか。その民主主義の正体というものを、CIA内部にいるエドワードだって、とうに知っていたわけだよね。
岡:だからあんなに暗くて不機嫌なの。
だったらなぜ、そこから脱却しようとしないで、妻も息子もローラもみんな巻き込んで、不幸な方へ、不幸な方へと進んでしまうのでしょうか。
小田嶋:中二病なんだね、きっとね。あいつら、14歳段階なんだよ。
岡:とりわけ女の人に対してはそうでしょう。
小田嶋:そうそう。(前回参照)
※中二病の定義には諸説ありますが、男性の方はご自分が14歳の頃、社会をどんな風に見ていたかを思い出していただければ、概ねよろしいかと思います。
岡:でも男に対しては、これがすごい老練なんだよ。ソ連からの本当のスパイはこいつだ、と気がついたときに、目の前でヴァイオリンを弾かせてさ。「本当に弾けるんだな」なんて言うセリフが、いちいちしゃれているんだよ。
小田嶋:男に強いのもやっぱり中学2年生の特徴でさ、俺は怖いものはないんだ、ということなんだよ。だって一番高いところから飛び降りたやつが偉いとか、そういう話だから。
岡:そもそもCIAに行くってことが、中二病といえば中二病でしょう、そんな判断をするなんて。
小田嶋:マッチョ、功利主義、戦争が一直線になっているアメリカのシステムの中で、その真ん中にあるのが中二病だよね。だから「グッド・シェパード」は、まあ、優秀な中二病患者の、象徴的な映画ですね。
逆に中二病じゃないアメリカ人っているのでしょうか。
小田嶋:ゲイの人たちなんかは、そこから免れているかもしれない。
岡:そういう位置付けになっていくのかもね。
小田嶋:アメリカでは成熟した人とか、ちょっとしゃれた男とかは、だいたいゲイだとかね。
岡:本当だね。
小田嶋:この間「ウィキペディア」の解説で面白な、と思ったんだけど、「ジョック」という言葉があって、それがアメリカの青春学園ドラマにおける典型的な主人公キャラのことなの。要するにスポーツマンで、野球のピッチャーなり、アメフトのエースなりという形の人間で、それの周りにハイスクールクィーンたちがいて、という具合。それに対抗する、というか、対極の人たちが「ナード」という人たちで。
岡:ナード?
小田嶋:キモオタですね。それでもう1つ「ギーク」というパソオタがいる。『ビバリーヒルズ青春白書』あたりの90年代アメリカドラマに出てくるのはジョックばかりで、「グッド・シェパード」の世界観に近い。でも、この前の「ソーシャル・ネットワーク」(2010年アメリカ映画)は、ど真ん中にギークとナードの象徴みたいなやつが出ていた。
フェイスブックの創始者のザッカーバーグさんですね。
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