:ショーケンは苦学生なんですよ。それでアメリカンフットボールの選手で、法学部の学生なんだよ。

ああ、だから、岡さんもアメフトをやって法学部に進まれたんですね。

:いや、いくら何でも、そんな簡単なわけ、ないじゃない。だって、それじゃあ、ばかじゃないですか。

え、でもご経歴を見ると…。

注・岡康道の経歴:
1975年に東京都立小石川高校を卒業後、浪人時代にアメリカンフットボールを始める。1浪の後、早稲田大学法学部に入学。

:…ほんとだ、まんまですね。多少は影響を受けたかもしれない。

小田嶋:少しじゃないぞ。

:いや、だから、その苦学生は、家庭教師の生徒である桃井かおりとできていて、自分が司法試験を突破して、金持ちの娘と婚約するときに、その子が邪魔になるわけです。これを殺すんですよ。

小田嶋:ひどい。

:そう、殺して雪山に捨てるんだけど、春が来て雪が解け、少女の手が見えてくる、というところで映画は終わりに近づく。つまり、映画の終わりとともに、そいつの人生が終わってしまうんだ。

小田嶋:ちょっと「太陽がいっぱい」的な感じなんだよね、最後。

:少しね。まあ、この映画の主題は階級闘争だ、と言うこともできるんだけど、その金持ちの娘を壇ふみが演っていた。

小田嶋:俺にはとにかく、ショーケンがカッコよかったね。

:70年代の象徴的な俳優ですよね。

小田嶋:松田優作が出てくる以前の、ちょっと不良がかった男のロールモデルですからね。

:それでショーケンが演っていた男は、カッコいいだけじゃなくて、悲しいんだよ。

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋:ちょっと悲劇を背負ったね。

:――って、観たってことだな、お前も。

小田嶋:だから観たってば。だって当時、お前が観て、がーがー言っていたからね。

:池袋でやっていたんだよ。

小田嶋:岡と観に行ったわけじゃなかったけど、観たんですよ。それで、なるほど、と。

高校時代ですね。

小田嶋:そう。だからその辺でいうと、岩下志麻が出た「桜の森の満開の下」(1975年、篠田正浩監督)だとか、結構観ていたんだよね。ただ、俺はこれを観たぞ、とかはお互い言い合ったりはしなかったけど。

岡の目に涙、つかこうへい演出

:ちょっと話は変わるけど、俺は去年、行ったぞ、北とぴあ。つかこうへいなき、つかこうへい劇団の最初の芝居、「飛龍伝」。でも、「つかは、もういないんだ」ということを会場のみんなが噛み締めているから、何か追悼会みたいっぽくなっちゃって。

小田嶋:つかこうへい、ね。

注・「飛龍伝」
 1973年「初級革命講座飛龍伝」として初演。90年に全共闘委員長の女性と、機動隊長の男性との悲恋物語として改稿。その後も改稿が重ねられ、2010年7月につかこうへいが逝去する直前には「飛龍伝2010 ラストプリンセス」が上演される。つか逝去の後、同年秋にも、北区「★☆つかこうへい劇団」が拠点劇場の「北とぴあ」で上演した。

:「飛龍伝」は、ほとんどギャグで構成されていて、脚本も初演からどんどん変わっていった作品なんだけど、北区のつかこうへい劇団のホンは、全共闘委員長の神林美智子と、機動隊長の山崎一平との悲恋というのがベースなのね。

小田嶋:ロミオとジュリエットみたいな立場なんだろう、この2人って。

:芝居では、そんな2人の別れの時間を作るために、早稲田大学の学生が機動隊と無駄な衝突を繰り返して、4000人だかが死んじゃうわけですよ。そのシーンで「都の西北」が大音量で流れるんだけど、僕はそのとき、必ず泣いちゃうんだよね。何の脈絡もないのに、ものすごく悲しくなっちゃって、何で俺、泣いちゃうんだろう…と思って(笑)。

ノスタルジーですかね。

:……そんな簡単に片付けないでくれる?

小田嶋:俺は全然分からないけど。

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