「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)
本記事は11年6月13日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
(日経ビジネス電子版編集部)
「青春の5本」をめぐる、コラムニスト×広告プランナーの同級生対談第3回。ン億円のギャラを取るハリウッドスター、欧州の大富豪、映画の中の富と貧しさ、などなど、お金、働くこと、そして帰属意識まで話は広がります。
ダンディなやさ男で、スウィーティで、アダルティで、酸いも甘いも分かってる風な、上司にしたいナンバーワンな、だけど不倫の匂いがしてくるぞ、というようなハリウッド俳優…って、一体、誰のことでしょうか。
(ダンディなやさ男が登場した前回から読む)
岡:それ、大人の事情で、ここで名前を明かすことはできないんだけど、ン億円ですよ。実に制作費の3分の2がギャラ。
一同:えーっ。
小田嶋:この人、もともと大部屋出身だよね。テレビ俳優出身で偉くなっちゃったという。
岡:それが今や1日ン億円ですよ。
小田嶋:素晴らしい仕事だね。
岡:朝から撮って、夕方に終わって、さようならって。
小田嶋:俺なんか腎臓を売っても、そんな金にならない。
岡:ミラノかどこかからガールフレンドを連れてきてさ。でも、いい人。
小田嶋:そりゃ、それだけのギャラをもらえば。
岡:たいていは機嫌のいい人になるよね。でも、もともと大部屋から出た苦労人だから、話も通じやすいんだよ。例えば日本の有名俳優たちは、CMには出るけれど、商品を持つ手のアップなんかは絶対にやらないですよね。でも彼は、ああ、いいよ、俺がやるから、って協力的でもあるんだよ。
面倒な人は乗せて転がせ
いい人ですね~。
岡:いい人。いい人だけどさ、それだけもらえば多少はやるだろう。何だってやるよね。
小田嶋:そりゃ、いい人になりますよね。

岡:クライアントの乗せ方も、すごい上手。挨拶をした後に、役員の女性のスーツをすぐ褒めるの。その役員は直前まで、「イヤだと言っても、商品は絶対に手に持たせろ」と言っていたのに、褒められた途端に、「いいかな、持たなくても」だって。
小田嶋:だから世界のホストみたいなものだよ。
岡:あいつにスーツ、褒められたら、女の人、どうする?
ええ~~っ、もう、死んでもいいかも~~っ(まじ)
男性陣 (鼻白む)
小田嶋:そいつとはちょっと違うけど、フランスとかに行くと、遊んで食っているやつって、いくらでもいるでしょう。
岡:そうだよ。「太陽がいっぱい」(1960年、フランス・イタリア映画 ルネ・クレマン監督)にもたくさん出ていたよ。
小田嶋:アラン・ドロンは貧しい側で、金持ちの側のあれを狙った人間の役だったよね。
岡:そうそう。
アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」は、60年代にご覧になっていましたか。
小田嶋:あれは子供の時分に、「日曜洋画劇場」で観ましたね。
岡:「男と女」とか「シェルブールの雨傘」とか。
解説のほうが面白かった(こともある)
小田嶋:あの辺りはだいたい淀川長治さんのご案内で観ていますよね。淀川さんが、「アラン・ドロンのアキレス腱がきれいでしたね」とか何とか、ものすごくビビッドなご意見を言ってさ、このおじさんはなかなかすごいことを言う人だな…というのを子供心に感じながら観てました。
アキレス腱という目の付け所が。
岡:変態だよね(笑)。というか、お前、何でそんなこと覚えているんだよ。それ自体が変態じゃん。
小田嶋:だから俺にとってヨーロッパの名画って、淀川さんとセットですよね。
岡:そうそう、セットなの。映画だけじゃないんだよ、淀川さんが面白いんだよ。
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