:日本人って顔があまり動かないじゃないですか。でも、外国人は、ぐにゃぐにゃな感じなんですよね。

小田嶋:日本人って、すごく無表情な人たちで、演技をする人、しない人にかかわらず、演技ということにとても向いていない民族なんだよね。だから日本の役者がだめだ、というよりも、そもそも俺たちの中には、あんまりアクティングな人たちがいないという。

:だから小津映画みたいな演技になるんだよ。出演者たちの表情がほぼ変わらないんだから。あれ、ヨーロッパの人が撮ろうと思うと、難しいよ。逆に。

小田嶋:確かにあっちでも黒澤明作品のリメイクはやっても、小津作品のリメイクは、なかなかないもんね。

:黒澤はハリウッドでもできるんですよ。でも、小津は難しいですよ。

小田嶋:我々って、そんな怒ったっぽく怒らないし、人前で号泣しないし。

声だけは「本物」でやろう!

それとは対照的に、日本では声優の技術がすごく発達していますよね。

小田嶋:アラン・ドロンの野沢那智とか、ルパン三世の山田康雄とか、プロフェッショナルな吹き替えがあったね。

声優の独特の技術は、CMには活用されていますか。

:本当はジーン・ハックマンとデンゼル・ワシントンでやりたいんだけど、そんなお金はないから「そっくりさん」でいこう、ということがありました。いや、それ、僕たちが以前に作ったCMだったんだけどね。そういう場合は、ジーン・ハックマンとデンゼル・ワシントンをいつも吹き替えている声優さんにお願いするんですよ。でも声優さんたちは、抵抗するんですよ。だって本人ではなく「そっくりさん」じゃありませんか、と。

小田嶋:そうだよね。

:いや、もうあなたしか考えられない、と、何とかしてお願いすることができれば、そっくりさんが本物のように見えてくるんです。

小田嶋:やっぱり日本の吹き替え術はちょっと特殊技能まで達していて。だから俺、スタジオジブリの映画で唯一残念なのは、声優として別の世界のタレントをたくさん使うことだよ。「となりのトトロ」で、お父さんの声を糸井重里がやっていて、あの棒読みのひどさったらなかった。でも、あの棒読みがたぶん宮崎駿的にはよくて、オレのアニメでは棒読みをしてほしい、みたいな気分がきっとあるんじゃないかな。

:アニメの場合は、監督が作ったキャラクターが声優のものになっちゃう恐れがある。

小田嶋:声優のクリエイティビティが発揮されてしまうと、キャラクターの性格設定から、立ち方から話し方から全部、作ったのはオレなのに、クリエイターとして不愉快だ、と、そういうことなのかもしれないですね。

:それだけ日本の声優さんがうますぎるという前提でもあるんだけど。

小田嶋:コラムニストがコラムを書いて、挿絵があって、その挿絵の方が出来がいいとちょっと不愉快、ということですよ。

:ハリウッドでは、本物の俳優を起用して作ったこともあるんだよ。

ええっ、そっくりさんじゃなくて?

:本物、そっくりさんじゃないよ。

――誰ですか?

:あの人。

ええ~っ! あの、ダンディなやさ男で、スウィーティで、アダルティで、酸いも甘いも分かってる風な、上司にしたいナンバーワンな、だけど不倫の匂いがしてくるぞ、みたいな、あのハリウッド俳優ですかあ~っ?

:(ちょっと鼻白む)この人はもったいないから、声優をあてるんじゃなくて、字幕にしたんですよ。

そりゃそうですよね~~!!(目がハート)

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