岡:総論を言ってしまえば、そりゃあ満遍なくですよ。でも、その中でも、最初に来るのが役者ですよね。例えばヒッチコック風の映像を撮りたい、と。それで、日本でアメリカ人なり、白人系外国人なりを起用しようということで、オーディションをやるとするでしょう。でも、そこに来る人たちは、まあ、基本、ツーリストなわけです。でも、ハリウッドでオーディションをやる場合は、背後にいわゆるハリウッドの大部屋、みたいな人たちが、たくさん控えているわけです。「サイコ」をモチーフにしたオーディションですよ、と募集したら、みんなサイコの格好をして来ちゃうんだからね。
小田嶋:気迫が違うんだね。
岡:だから僕たちだって、誰がふさわしいのか選びやすいよね。でも、これが東京の場合、ジーンズにシャツで来られても分からない。必死で集めた20人の六本木と、「サイコ」の格好をした200人のハリウッドでは、そこでもうレベルが全然違っているわけです。
なるほど。役者のほかに大事なものは?
岡:カメラマンもそうですよね。役者も芸術家も、みなそうだと思うんだけど、やっぱりギャラが高いやつほどうまいんです。50万円のカメラマンと250万円のカメラマンとでは、フィルムの出来が歴然と違います。
小田嶋:それ、何が違うの?
日本の照明は「暗いところをなくす」仕事
岡:スチールもそうだと思うけど、構図の切り取り方だよね、まず。それと、照明の技術がありますね。カメラマンが照明に指示を出せるかどうか、そこが大きな力量の違いになると思いますね。

小田嶋:そういえば、名手と呼ばれる映画監督は、自分のカメラマンを決めているよね。
岡:決めていますよ、みんな。照明までセットですよ。向こうではライティングディレクターっていって、地位が高いんですよ。だから、そういうスタッフとやらないと、ヒッチコック風にはならない。
小田嶋:日本のCMは、何となくぴかっとしたものになるよね。
岡:日本の広告を作る人たちは、満遍なく明るくしてください、というのが積み重なっているから、ぴかっとして、つるっ、ですよ。あれ、生理的にヒッチコックのように落とせないんですよ。
蛍光灯派の岡さんにして、そうおっしゃいますか(シーズン2最終回後編参照)
岡:僕は蛍光灯派ですけど、それは生活の場面であって、仕事の映像とは違いますよ。だから、向こうの人たちは僕たちの生活と関係ないから、本当に落とすよね。
小田嶋:あのヴィスコンティの映画とかを観ると、俺、陰鬱になっちゃって。
だって陰鬱な映画なわけですから。
岡:ああいう陰鬱さは日本人には出せないんだよ。あと、映像のトーンの違いでいえば、フィルムの現像液も違うんですよ。
小田嶋:そうなんだ。
岡:日本には、日本独自の現像液のルールがあり、それはヨーロッパともアメリカとも違うんですね。要するに、現像液の中に入っているある種、毒性のある薬品を国が許すか許さないか、ということなんだけど、それによってフィルムの色が違ってくるんですよ。だから向こうの雰囲気を出したいのなら、向こうで現像した方がやっぱりいいんですね。今でもそうだけど、海外ロケに行ったら、フィルムは現地で焼いちゃうんですよ。焼いた上で持って帰ってくる。そういう違いもありますよね。
役者、カメラマン、ライティング、そして現像液、ということなんですね。
小津映画がハリウッドでは作れない理由
小田嶋:こういうところでデーブ・スペクターの発言を引用するのもどうかと思うけど、「日本ではTVのバラエティ番組をみんなクソミソに言うけれど、あれは結構よくできている。だけどドラマは全然だめ。お話にならない」って言っていた。とにかく役者の演技力がまったく違うんだ、ということなんだけど、確かに外国のドラマとか映画とかと、日本のあれとはまるで違うよね。
岡:1つは、外国人は顔が柔らかいんですよね。そこが違う。
顔が柔らかい?
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