岡:いえいえ、そんな難しいことはやらないよ。
小田嶋:短編だとそこまで引っ張れないし。
岡:短編というより、15秒ぐらいだからさ、そもそも(笑)。
小田嶋:ヒッチコックは伏線の張り方がすごくうまいよね。
岡:隙もないし、無駄もない。何となく風景を入れたとか、そういうことがなくて、全カットに意味があるんですよ。まあ、すべての映画は、すべてのカットに意味を込めて作られているんだろうけど、観ている方には伝わらないよ、というものが多い中で、ヒッチコック作品はすべてのカットが寄木細工のようになっている。だから僕も30歳ぐらいのときに、そのヒッチコックのようなCMも作りたいと思ったわけですよ。
ミラパルコの一方で。
岡:一方で。でも、ヒッチコックみたいな映像を撮るには、まずスタッフを替えなきゃだめなんだ、と気付いて。日本であれは撮れない、ということで、向こうのスタジオで、向こうのカメラマンで、向こうの照明でやるんだ、と。それにはお金が掛かるよね。だから、そういうことが許されるチャンスを、刻々と狙っていた。で、ある時、これならハリウッドに行けるぞ、という状況が整って、ハリウッドに行ったんですよ。
一同:おお。
岡:「なぜ、マーティンは杉の木を切ったのか」というタイトルで、製薬会社がクライアント。
小田嶋:なかなかミステリアスじゃないか。
主題は?
岡:要するに、くしゃみが止まらないから、杉を切り倒して止めたい。って、それ、僕のことでもあるんだけど、それを撮るためにハリウッドに行ったんです。
はあ。鼻炎薬ということですね。
小田嶋:感動的な秘話ですね。
注・コンタック鼻炎のCM
取調室のような建物にナレーションの声が響く:なぜ、マーティンは杉の木を切ったのか?
(ティッシュで目と鼻を覆い、うなだれるマーティン)
母親:あの子はもう我慢の限界を超えてしまっていて、どうかしていたんですよ。本当はいい子なんです
ナレーション:杉花粉などによるアレルギー性鼻炎に……という具合
そう言われてみれば、ヒッチコックがプランナーを務めた、と思えないこともないかも。
足りないのは才能ではなくて、お金なのかも知れない
岡:そんなわけ、ないじゃない。そんなことは、もちろんないけどさ、当時は真剣だったの。でもCMだって勝負するなら、制作費をどんとかけないとだめなんだよ、結局は。
小田嶋:映像ってそういうところがあるよね。とにかく予算が掛かっちゃうから、そこのところで節約しちゃうと、どうにもすごくなっていくというのがあるよね。
岡:そうそう。
小田嶋:俺の友達で映画を撮っていたヤツがいて。そいつはもう死んじゃったけれども、彼が撮ろうとしていた映画自体は、俺、悪くなかったと思うんだよ。みんな一生懸命、バイトをしてお金を出し合っていたんだけど、お金がないから、フィルムをたくさん回せないわけ。尺を回せないし、照明もあんまり使えないし、役者だって名前のある人は使えないよね。だからこそ、お金を出してきたやつには、ちょっといい思いをさせたくなって、それぞれのアイディアを少しずつ取り入れちゃうのよ。
そうすると、ちょっと映像派っぽい画面があったり、ちょっとロマンチックな場面があったり、全体として統一が取れないものになって、最終的に出来としてはひどい映画になった。だけどそれは、彼らに力量がなかったんじゃなくて、むしろなかったのはお金なのかな、という感じがしたんだけど。
岡:そうじゃないかと思うよ。
小田嶋:難しいものだよね。
お金を掛ける場合は、ここ、というポイントがあるのでしょうか。あるいは、満遍なく掛けなければいけない、ということなのでしょうか。
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