小田嶋:今、どうして女の子が足を洗っているのが視界に入ったんだろう?? って不思議だった。だって早稲田だったら、人だかりがしちゃって危ないでしょう。でも学習院では誰もがみな、普通の風景として通り過ぎていくのよ。あれってさ、

で、岡さんはマイ・バック・ページのめそめそが好きだ、と。

小田嶋:あ、話、まだ終わっていないんですけど…。

:いや、僕はめそめそが好きなのではなく、映画館には泣きに行くという前提なので。

は?

:僕、泣きたいんですよね、映画を観て。小田嶋がだめだと言っている「最後の忠臣蔵」でも、ちょっと泣いちゃいましたしね(2011年11月21日回へ)。

小田嶋:岡は初めから「俺は今日は感動しに行くぞ」みたいに、用意をして全開状態で行くんでしょう。俺なんかは逆の構えで、「こんなものに泣かされてたまるか」みたいなことで行くから、たいてい引っ掛からないわけですよ。

小田嶋さんは戸を閉めて行く、と。

小田嶋:俺が戸を開いていく瞬間って、それはふっと、構えもなしに無防備に見たものですよ。何かやってないの? みたいなことでふっとWOWOWあたりを見ていると、おおっ、とくる。そういう、こちらがあまり構えてないときに流れていて、この映画知らなかったな、みたいなのがいいの。だって映画というのは、お金を払って1人で観ると、タコな作品でも、取り戻そうと思う心理が働くのかしらないけど感動しているんだよ。

:そうかなあ。

小田嶋:だってやっぱり千いくらか払っているわけだから、感動しなきゃ損でしょう。俺、この間それを体験したのは、シャロン・ストーンとシルヴェスター・スタローンが出ていた、すごいばかな映画。それを時間つぶしか何かで、映画館にふっと入って、金払って観た覚えがあるの。それをいい映画だったような気がしてずっと生きてきた。

:何というタイトルなの?

小田嶋:何といったっけ。それ、この間WOWOWだか何かでやっていたので観たのね。そうしたら、くそ映画ですね。どこからどこまでもタコで、俺、こんなのに金払って、観て、結構感心していたのか、って自分でびっくりしたのよ。

だめだな、オダジマは。

小田嶋:やっぱりお金を払っちゃって1人で観に行っちゃうと、そこそこいい映画に見えるということは実はあるでしょう。

注・小田嶋さんが思い出せなかった映画のタイトルは「スペシャリスト」です。

実生活ではあってはならないこと

小田嶋:昔は単館みたいな映画館に行くとさ、少年狩りみたいな人に触られるという経験もあってさ。

:ねえよ、そんなの。

小田嶋:これは、かなり多くの人から証言を得ているんですけどね。

男性編集者その1:僕、ありました。

男性編集者その2:僕もあります。大学時代。

:ええーっ。

小田嶋:映画館というのは触られポイントですよ。当時の早稲田の映画館なんかすごかったですよ。前の方に座って、隣にスーツのへんなやつが来たら、だいたいそうですよ。それ、多分、発展場になっていたのを、俺が知らなかっただけなんだけど、相手にしてみれば、おっ、今日はこういうやつがリングに上がってきたぞ、という感じなんでしょう。こんなに空いているのに、このおやじはなんで隣に座るんだ、という人は、今思えばそうだった、

お2人が映画に期待することとは何なのでしょうか。

小田嶋:あ、話、終わってないんですけど…。

:とにかく僕は、その泣けるのがいいんです。例えば「ブラス!」とか「リトル・ダンサー」とか。あれって貧しいところからいく話で、絶対泣いちゃうってところがあるじゃない?(笑)。だから階級闘争が入ってないとだめだという。

小田嶋:俺は「泣く」ということは、映画には一切期待してない。だってひと事で泣くということはあんまりないから。ただ、映画には時間を忘れさせてほしいとは思っているよね。

日ごろの心理的なプレッシャーが、小田嶋さんの場合は、岡さんより少ないってことでしょうか。

小田嶋:岡にプレッシャーがあるようにも思えないけど。

:いや、映画館以外に泣く場所なんかないじゃないですか。暗いし、1人きりだったら、思い切り泣けるじゃないですか。泣くと気持ちがいいですからね。

小田嶋:何で泣きたいのよ。

:俺にも分からないけど。

小田嶋:俺は、泣ける、とか言われちゃうともう、そもそもの対象から外しちゃう。それって、自分の人生と関係ない映画の中で泣いたことで、少しすっきりして帰ってくるということがあるわけ? 

:まあ、すっきりしてというか、実人生で泣くのはつらいからね、相当。

小田嶋:そうだね。それはあり得ない。あってはいけないことだ。

そうか。泣いていたんですね。

(続きます)

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■変更履歴
本文中で、「中革」は「中核」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。すでに修正済みです [2011/12/12 15:40]

「人生の諸問題」は4冊の単行本になっています。刊行順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』(以上講談社刊)『人生の諸問題 五十路越え』(弊社刊)

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