小田嶋:いや、あえて言うなら、勝手に借りに行った、ということにしておいてください。

青春と死との距離という映画的なテーマから、どんどん離れていってます。

:だからテーマを映画に戻すと、今年の日本映画でいうと、「マイ・バック・ページ」は、すごいよかったですよ。主人公は1970年代に新聞社の記者をやっていたから、俺たちよりもちょっと前の世代だけど、俺たちの世代にも、かなり来るものがある。懐かしかったです。

「マイ・バック・ページ」(2011年、日本映画)
原作・川本三郎、監督・山下敦弘
主演・妻夫木聡、松山ケンイチ
東大安田講堂事件、三里塚闘争など、60年代末から70年代前半にかけて白熱した新左翼運動を背景に、1人の週刊誌記者の苦くセンチメンタルな挫折を描く。東大出身の記者、沢田(妻夫木聡)は、自称・新左翼の活動家、梅山(松山ケンイチ)に近づき、スクープを狙うが、シンパシーが判断を誤らせ、やがて身の上に重大な転換が訪れる。

小田嶋:「マイ・バック・ページ」は、川本三郎さんの原作で、映画ではボブ・ディランの同名の曲を誰かがカバーしてるでしょう。

注・ボブ・ディランの「マイ・バック・ページズ」を、真心ブラザーズ+奥田民生がカバー。

:主演は妻夫木聡君ね。妻夫木君は、「悪人」より「マイ・バック・ページ」の方が自然にできたんじゃないですかね。「悪人」はやっぱり彼と違うキャラだったからね。

小田嶋:「マイ・バック・ページズ」というのは、ディランの歌の中では「I was so much older then I'm younger than that now」という、要するに、「昔の自分の方が今よりもずっと歳を取っていて、今の俺はそのころよりずっと若いんだ」と、歌っているものがあるの。自分の過去のあれこれを象徴詩のように綴っていて、「そのとき私は平等という言葉を、結婚の誓いのように語っていた」とか、出てくるんだけど。

カッコいいことは、こんなに変わった

:カッコいいじゃないか。

小田嶋:そう、カッコいい言葉がいくつも出てくるんだけど、最後のサビのフレーズは、「I was so much older~」の繰り返し。俺は映画を観ていないから、映画にそれが生かされているかどうかは知らないけど、とにかく昔を振り返ったとき、昔の自分は今よりずっと老成していたよ、という感慨が表現された不思議な歌なんだよ。

:なるほど、なるほど。(と、感慨に一直線)

いや、でも、映画はそういうのではなかったような気がしますけど。どういう映画かというと、めそめそしていました。

:は(っと、感慨から醒める)

小田嶋:はい、そうでしょうね。

:確かにめそめそしていたな・・・。

小田嶋:全共闘はめそめそというのが基本だよね。でも、弁護のために言っておかなきゃいけないと思うんだけど、あの時代は、めそめそしていることが重要な時代だったんだよ。それはこの対談で岡と話した「されど我らが日々」(=柴田翔の小説。シーズン3・2010年11月1日回参照)と同じなんだけど、あの、うじうじした小説が、リアルで、かっけえーな、と思えたときは確かにあったんだよ。

:そうだった。あれ、70年代には、最高にカッコよく思えたんだ。

小田嶋:ちょんまげを結っていた時代には、親が殺されたら、殺し返しにいかなきゃいけないとか、殺されても、武士の息子は絶対に悲しい顔をしちゃいけないとかいうメンタリティがあったよね。そんなものは、今やもう時代劇の中でしかなくて、想像すら付かないけど、全共闘時代のときの気分というのも、それと似ているんじゃないかな。

 今、振り返ると、「あのころの人たちって女々しかったんだね」で終わりだけど、他人の悲しみに同化するということが、当時は男らしいことだったりしたんだよ。

:だって革命って、他人の悲しみに同化することだもんね。

あのころ、もし原発事故が起こっていたら

小田嶋:今だと、人が悲しんでいるとか弱っているとかに対して、クールに構えている方がカッコいい態度なんだけど、その、クールという言葉自体がカッコいいってことを表すこと自体、すでにもう現代的なのであるという。

あの、何をおっしゃっているのでしょうか。

小田嶋:だから昔はクールなやつって、だめなやつだった。

:熱い方が賞賛された。

小田嶋:そうそう。

:あるいはノンポリシーか。

小田嶋:そうね。ノンポリという態度表明にしても、基本的に何かに関わっていくぞ、という人間の方が、価値が高かったのよ。ここに泣いている人がいれば、「どうしたんですか?」と声をかける、みたいな暑苦しいところがあったんだよ。

:1970年のころに東日本大震災や原発の問題が起きていたら、早稲田なんて、もっととんでもないことになっていたはずだ。東大にしても、他の大学にしても。でも、今はまったく大学が動いてないんだよね。

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