「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)
本記事は2011年12月12日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
(日経ビジネス電子版編集部)
(アメリカ映画「イントゥ・ザ・ワイルド」を観て・・・)
小田嶋:結局、俺なんかもそうだったけど、プライドが異常に高いくせに自信がない(思わず太字で強調)わけ。社会で自分の収まるべきスペースがどうしても見つからないから、取りあえず、そのままでいる言い訳として、困ったら死んじゃえばいいや、みたいなことを考えていたりする。それが一種、精神の安定材料になっていたりもするんだけど、それをやっていると、いつか死なないと精算できない、という深みにはまっていってしまう。
小田嶋さん、臨場感がありますね。
小田嶋:仲間うちで、それで死んじゃったやつがいるから。
小田嶋さんもそっちに行ってもおかしくなかった?
小田嶋:危なかった。
・・・という前回からの続きです。この辺り、よろしければ、小田嶋さんがみずからしたためた名コラムでもどうぞ。(→「ピース・オブ・警句」2011年11月25日「生意気な「談志」と二人の友だち」※2021年現在公開停止中)
小田嶋:以前に岡との話にも出た、牧師さんをやっているモリモトアンリと30年ぶりに会ったんだけど、彼もやっぱりすごく危ないところにずっといたみたい。
岡:アンリか。

小田嶋:お互い、おっさんになれてよかったな、という話をしたけど、やっぱりアンリも20代、30代はとてもひどい危機の中にいたみたいで。まあ、牧師なんていう場合はそうだろうけどね。
岡:だいたい、自分自身の死と向き合わないと、牧師という職業には行かないだろう。
小田嶋:俺、高校1年のときにアンリと2人で地下鉄6号線(編注:都営三田線)が通ったばかりの千石駅に、忍び込んだことがあるんだよ。
岡:俺は千石駅って、使った覚えはないんだけど。お前、使ったの?
小田嶋:いや、地下鉄が通る前に、駅だけできていたんだよ。その地下に線路が通っていて。
岡:うんうん、そうだった。
小田嶋:それで、アンリと2人で工事中の駅のシャッターを開けたら、がらっと開いちゃったことがあったんだよ。
えっ?
都営三田線スタンド・バイ・ミー
小田嶋:そう、えっ? と言いながら、モリモトが先にどんどん入っていっちゃて。だから、あいつは当時、ちょっとヤケになっていたんだね、雰囲気として。
岡:それ、聞くからに危険だよ。
小田嶋:あいつが階段を下りてっちゃうから、俺も付いていかざるを得なかったわけだ。そうしたらホームができていて、線路もあるじゃない? 線路があるぜ、これ巣鴨まで続いているのかな、って2人で線路の上を歩いてたら、向こうから電車が来ちゃったんだよ。
岡:うそ。
小田嶋:それで、2人して、わーって柱の陰にへばりついたら、電車は急ブレーキをかけて止まったけど、地下鉄のおやじにつかまって。それで散々説教されて帰ったことがあるんだけど。
岡:当たり前だよ(苦笑)。
小田嶋さん、この期に及んで、まだそんな青春のエピソードがあったんですね。
小田嶋:おっかない話でしょう。うかうかすると轢死するという。
岡:うかうかどころか、即、じゃないか。
小田嶋:地下鉄の線路を歩くなんて、もってのほかですよ。
そういう「スタンド・バイ・ミー」なことをやっていたんだ。
小田嶋:はい。まさしく「スタンド・バイ・ミー」と「イントゥ・ザ・ワイルド」のちょうど中間ぐらいですね。
岡:アンリも困ったやつだなあ。
小田嶋さんは死を賭して付き合ってあげたんですね。
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