:でも、あれで死ぬのはつらいよね。

小田嶋:ねえ。

:死後、2週間ぐらいで、キノコ狩りか何かの人が見つけたんでしょう。そうしたらさ、2週間に1回ぐらいは人が通っているわけじゃない?

言われてみればそうですね。

小田嶋:本当のめちゃくちゃ奥じゃないってことだね。

:じゃないよね。

小田嶋:バスが落ちているわけだから。

:だから荒野の奥じゃなくて、どっちかっていうと入り口の方なんだよ。あそこでバスが終点になっているんだから。

小田嶋:日本で言えば熊野古道の始まりの辺りで。

:だから、やっぱり電話ボックスはあった。

もう、いいです。

:いや~、心が洗われるような映画だったよね。

そっちの方をもっとお話してください。

:ああいうのを観ると、俺、毎日何をやっているんだろう、とか思っちゃうんだね。

小田嶋:俺もああいうふうに、適応できなくて、苦しんでいた時代があったな、というのを思い出すよね。そういうの、どこ行っちゃったんだろう(笑)。

本当に。

小田嶋:若いやつがまともな大人になるまでの間は、やっぱりああいう道をどうしても通るんだよね。きっと今、若くて、すごく楽しそうにしているやつでも、間違いなくああいう苦痛は多かれ少なかれ抱えているんだと思う。

:しかもあれ、実話ですからね。

小田嶋:100人いれば2人や3人は死んじゃうわけだからさ。

:生き残っても、ああいう気持ちは変形されて、結局は残っているんじゃないのか、って思うよ、俺にしても。

人生に戻ってくるとき、ヒトはおっさんになる

小田嶋:俺は若い時代に死んじゃったやつを何人か知っていて、どうしてもそいつらを思い出すよね。もう少し粘れば何とかなったんじゃないか、というところで死んじゃったやつもいるから。

:ものすごく普遍的なテーマですね。

小田嶋:あれはとてもアメリカ映画な映画だから、アメリカっぽい死に場所の見つけ方をしたけど、日本人だともう少し違ってくるだろう。

:何しろ日本は周りに人が多いから。

小田嶋:その人口密度のところの事情も確かにあるけれど、日本人はもう少し湿っぽくならないと死ねないんだよ。あんな乾いた土地で、独りで死ぬのは俺にしてもかなわん、という。

:クリスは荒野に分け入って、もう十分だと思ったようにも見える。映画の中に、「幸福というのがリアルな形をとるのは、それを誰かと分かち合うときだけだ」というセリフがあったけど、独りぼっちを選んだあいつは、もう自分自身が幸福を得られないことを分かってしまった。毒草を間違えて食べたことで彼は死んでしまったけど、ある種の自殺を遂げたともいえる。親や大人たちが作った社会に入りたくない、という拒絶の気持ちが、最終的に死につながってゆく。

小田嶋:結局、俺なんかもそうだったけど、プライドが異常に高いくせに自信がない(思わず太字で強調)わけ。社会で自分の収まるべきスペースがどうしても見つからないから、取りあえず、そのままでいる言い訳として、困ったら死んじゃえばいいや、みたいなことを考えていたりする。それが一種、精神の安定材料になっていたりもするんだけど、それをやっていると、いつか死なないと精算できない、という深みにはまっていってしまう。

小田嶋さん、臨場感がありますね。

小田嶋:仲間うちで、それで死んじゃったやつがいるから。

小田嶋さんもそっちに行ってもおかしくなかった?

小田嶋:危なかった。

:小田嶋は危ないですよ。

小田嶋:まあ、何だかんだ、結局、結婚しちゃったり、子供ができちゃったり、いろいろしている中で、ふと気が付いたらおっさんになっていた、ということで生き延びたわけだけど。

おっさんになるって、どんな気分ですか。

小田嶋:生還したみたいな。

岡さんはどうですか。

:解脱したみたいな。

(続きます)

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(「人生の諸問題 令和リターンズ」はこちら 再公開記事のリストはこちらの記事の最後のページにございます)


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