「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)

 本記事は2011年12月5日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

前回からの続き>

前回まで、岡康道さんが出した3本の課題映画で盛り上がりました。だったら次は、小田嶋さんによる3本を…ということで、小田嶋さんからは次のタイトルが挙がりました。

<コラムニスト、小田嶋隆が挙げる3本の課題映画>

○「亀は意外と速く泳ぐ2005年・日本映画
監督:三木聡 出演:上野樹里、蒼井優、岩松了、ふせえり

○「たそがれ清兵衛2002年・日本映画
原作:藤沢周平 監督:山田洋次
出演:真田広之、宮沢りえ、田中泯

○「イントゥ・ザ・ワイルド2007年・アメリカ映画
原作:ジョン・クラカワー 監督:ショーン・ペン
主演:エミール・ハーシュ

小田嶋:じゃあ「亀~」からいきますか。

これ、いきなりの変化球ですが。

小田嶋:俺はこの映画が大好きで、素晴らしくて、一押しで、というのは少し違っていて、全体としてどうなんだ、といわれると、ちょっと困るところがあるんだけどさ。

:何だよ、それは。

コラムニスト 小田嶋隆氏(写真:大槻 純一、以下同)

小田嶋:でも日本映画の中で、洋画には絶対にない味わいって、こっちじゃないかな、と思って。例えばシリアスなドラマとか、笑い転げる話題だとか、あと、人間がちゃんと描けているかどうか、ということになると、邦画は洋画には勝てないんだけど、つまらないところにつまらない仕掛けがあって、そこで、にやっとさせられる微妙なディテールの面白さがあって、おそらくそれは日本人にしか出せないものなんだろうな、って。

ガラパゴス的な。

小田嶋:そうそう。

岡、大いに怒る

小田嶋さんの言いたいことは分かりますが、岡さんは全然分からなかったそうです。

:僕は、まったく、何でこれを観るのか、俺は観たくなかったというか、俺の時間を返せというか…

と、言葉にならないほど苦しんだそうです(笑)。

:小田嶋、ふざけるな、って電話しようと思ったぐらい、つらかったですね。

小田嶋:いや、あれは見せられちゃうと無理ですね。出合わないと無理な映画です。

:何て無責任なんだ。

小田嶋:あれ「チャンネルNECO」か何かを見ていて、ぷっとついたのでふと見ちゃったの。前半なんかは、これはいったいどうやって持っていくのよ…と思いながら。

:今、広告って、震災の空白の後、一斉に復活したわけですよ。だから僕、今、すごい忙しいわけ。その中で、何で、あの「亀~」を観なきゃいけないのか、って。

震災復興なのに、それは大変でしたね。

:大変だったんだよ(怒)。

小田嶋:きっと怒っているんじゃないかなと思っていたよ。

実は私も最初、小田嶋さんには、こんなものを選んで、とすごくハラを立てていました。

小田嶋:うっ。

:もう僕は、出てくる人たちが、ことごとく嫌いだった。主演の上野樹里だって「スウィングガールズ」の方がずっとよかった。

小田嶋:だから、どっちが映画としてちゃんとしているかといったら、「亀~」より「スウィングガールズ」の方だよ。でも俺がこの映画を推したのは、内容はないけど余韻はある、と、そういうところがあるから。

:余韻…?

反撃の清野

小田嶋:そう、余韻がある。あの映画はさ、映画館で金を払って観たら、俺も怒っていたんじゃないかという気がしないでもない。こっちが「観るぞ」って構えて観ると、リンゴが階段の坂道を転がってくるぞとか、うずらの卵焼きを100個作るぞ、とか、いったい何を言いたいんだ、という。

:まあ、「亀~」はそうだったけど、あとの2本はよかったよね。

え、もう「亀~」から次の映画に行っちゃいますか?

:次に行くでしょう。

いえ、私は見終わった後、この映画は素晴らしい! と思いました。だから岡さんと全然違います。

:えっ?

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