:ダーウィンフィンチとか、そういう方面の話はよく分からないけど、日本人はこれで間違いなく貧乏になりますよ。だから今後は、富じゃなくて貧乏の再配分が、政治の一番重要な仕事になるんじゃないですか。公平に貧乏を分け合うにはどうしたらいいか、という。

岡さんは電力会社のCMにかかわったことはありますか。

:かかわったこと、ありますよ。何も気にせずにね。今となってはそのことを話したくないんだけど。

堂々と言えない感がありますか。

:堂々と言えないというか、僕は原発の反対運動なんてしていなかったし、元気に電気を使っていたわけだし、その広告まで作った。だから能動的ではないにしても、賛成派だったと思うんだけど、こうなった今は、やっぱり間違えていた、と。街が暗くてもいい、貧乏になっても耐えるから、原子力発電はやめよう、やめた方がいい。こういう事故を目の当たりにして、それでもさらに続けるなんて、正気の沙汰ではないと思いますけどね。

小田嶋:とにかく何かあったときの予後が悪すぎるよね。

:悪すぎる。

小田嶋:しかも被害が現れるのがすぐではなく、何年か後というところもね。

:それも、僕たちのような一般人には、本当のところは分からないんだけどね。NASAかどこかの研究では、年間2ミリシーベルトの放射線が人間にとってはベストの状態なんだ、という見解もあるらしいんだよね。

小田嶋:ラジウム温泉みたいに。

日本の法律では、一般人の年間被曝量の上限は1ミリシーベルトと定められています。

:だから、いったい何が本当なのか。年間2ミリシーベルトがベストだとしたら東京は今、ちょうどいいのか。俺たちは寿命が延びる可能性もあるのか、って話にもなるじゃない?(注・この件にかんする信憑性については、当編集部は一切、保証しません)

小田嶋:いずれにしろ、分かっている話と分かってない話とがたくさんあって、前例がないから結局、俺たちは何も分からない。ただ、何しろプルトニウムだからね。だって「鉄腕アトム」の最後の敵はプルートゥだったんですよ。プルートゥの語源は、ローマ神話で冥界の王を指す「プルート」って、まずいよね…。

いずれにしても、私たちはビフォー震災とアフター震災を生きることになりました。さて、前フリが長くなりましたが、今回から、先に好評を博した「青春の読書編」に続く「青春の映画編」を始めたいと思います。

:これ、災害と全然関係ない…。

どうして「恐竜百万年」が?

まずは「青春の読書編」と同じように、お2人からいただいた「青春の映画編」のラインナップをご紹介しましょう。

○岡康道の「青春の5編」

「東京物語」1953年日本
監督:小津安二郎 出演:笠智衆、原節子

「若者たち」1967年日本
監督:森川時久 出演:田中邦衛、佐藤オリエ

「ゴッドファーザー」1972年アメリカ
監督:フランシス・コッポラ 出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ

「青春の蹉跌」1974年日本
監督:神代辰巳 出演:萩原健一、桃井かおり

「ロッキー」1976年アメリカ
監督:ジョン・アヴィルドセン 脚本・出演:シルヴェスター・スタローン

○小田嶋隆の「青春の5編」

「熱いトタン屋根の猫」1958年アメリカ
監督:リチャード・ブルックス 出演:エリザベス・テイラー、ポール・ニューマン

「恐竜百万年」1966年イギリス、アメリカ
監督:ドン・チャフィ 出演:ラクエル・ウェルチ

「家族ゲーム」1983年日本
監督:森田芳光 出演:松田優作、伊丹十三

「ショーシャンクの空に」1994年アメリカ
原作:スティーヴン・キング 監督:フランク・ダラボン 出演:ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン

「トレインスポッティング」1996年イギリス
監督:ダニー・ボイル 出演:ユアン・マクレガー

小田嶋:映画はどちらかというと、岡が中心にやってくれないと。俺はこの辺りは正味、弱点だから。

:そうなの? いや、俺も言うほど映画、観てないんだけど。でも、この連載で僕は広告のことをちゃんと語らないとまずいな、と思っているの。いつも脱線して、広告によるコミュニケーションの話ができないまま、なかなかお役に立てていないからさ。

2007年に連載がスタートして、今、ようやく出発点に来ました。

小田嶋:俺は5本を挙げるのがやっとだった。

:かっこいいのが挙がっていたけどね。

岡さんのラインナップはまさしく「青春の」という感じですが、小田嶋さんは「生涯の」という感じですね。

小田嶋:一生の間に5本や10本は映画を観ている、と。そうなると、このぐらいのいい映画になっちゃうわけよ。

「恐竜百万年」だけ、ちょっと色が違うというか。

小田嶋:これはね、ラクエル・ウェルチ。これは素晴らしい映画だというんじゃなくて、俺、たぶん小学校2年生か3年生かのときに親に連れられて観て、恐竜とかストーリーとかじゃなくて、ラクエル・ウェルチの格好に若干反応していて、それでそういうトラウマを植え付けられたみたいなところがあるの。

8歳か9歳のころですよね。

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