パソコン上ではなく、リアルな自分の部屋にリアルな書斎、本棚ということですね。

濱野:はい。それが電子書籍だとできないわけですよね。だから嫌だな、という感じがするんです。並べ方をかっこよくするとか、自分なりに書籍を分類したり意味付けて並べたりとか、自分でいろいろ工夫したいんです。

そして、それをじっくり眺めたい、となるんですか。

濱野:はい。それこそ幸福感みたいなことを得るために……。

まさしく、「人生の諸問題シーズン3」の初めに出た話(「僕の素敵な本棚は、二度と読まない本でいっぱいさ!」ですね。

小田嶋:ここで、そこにつながるとは予想外でした。

濱野:いや、本好きの人は結構そういうタイプが多いと思うんですけどね。

小田嶋:ただ、実際に読む、読まないになっちゃうと、本をある程度以上、山ほど読む人たちって、実際に本の処理に困っています。俺の知り合いなんかの、ばかみたいな読書家の人たちって、いつもそこらへんを悩んでいますよ。

濱野:確かに。私も引越しのたびに電子化しようと決意するんですが(笑)。ある限界に行っちゃうと、そうなるのはよく分かります。

小田嶋:だから知り合いでも、「自炊」というのをしている人たちが何人かいますよ。自分の本を自分でバラして、「ああ、これで○○全集を捨てないで済む」とかってやってます。それって、相当おかしな光景ですけど。

※ 自炊=書籍の表紙を取り外し、活字部分の束をバラして、専用の機械で1枚ずつスキャンすると、活字がテキストデータに変換されて、パソコンの中やネット上に保存できる。

濱野:実は私も自炊を検討したいな、というところはあるのですが、まだやっていないんですよね。

小田嶋:現実にはそういうことを請け負う業者も普通に街に出てきているわけだから、そうすると、本の著者というのは、本で儲けるというのはもしかしたら、あきらめなきゃいけないのかなと、俺はちょっと考えるわけ。

だったら小田嶋さんはどうやって食べていけばいいんでしょう。

「評判資本」と「クラウド」で考える「本」の行方

小田嶋:俺が本を書く、と。その本はもう書いたら、どこかに漏れちゃって、その漏れたやつがコピペされてみんな読んじゃうんだ、と。ただ、「あの本を書いた人なんだよ」というリスペクトだけは、どこかで残るかもしれなくて、その中の心ある人が投げ銭してくれるんじゃないか、みたいなことを期待するわけです。で、100人の読者のうちの2人が投げ銭してくれたら俺の生活が成り立つ、みたいなシステムだったり、活字で得たリスペクトを換金する方法だったりを、どこかの天才が発明するのを待つ、と。俺の場合はそういうことですよね。

 だって本そのものから印税みたいな形で取っていこう、というのは、きっともう難しいんじゃないかと思うから。

濱野:私個人としては、本というパッケージが好きで、細々と買い続けると思いますが、全体から眺めると、本だけを売って儲ける、というビジネスモデルは、もはや難しいですよね。

小田嶋:だから村上龍がどういう作家か、ということは別にして、これからの時代は、「この人は本にしがみついているな」という感じがしちゃうのは、結構すごくマイナスイメージじゃないだろうか、と俺なんかは思うのね。「いや、僕の本は全部、リンクフリーのコピーフリーで、タダですよ」と言いながら、ハハハと笑って見せることをやった方が、長期的に見れば得なんじゃないだろうか、という感は持っています。

でも、その長期がどのぐらいの長期かによりますよね。

小田嶋:そうですけどね。

10年なのか、100年なのか。

濱野:この議論はすごく難しいですね。ただ、基本的な考え方は2つあると思うんです。

 第1は、「本」というパッケージの方が消えるんだったら、金銭ではなく、まさに「評判資本」という個の力でビジネスを回していくやり方です。個の力として有名になったら、講演依頼などが来るようになるかもしれない。だったらそこで儲かるからいいでしょう、という世界ですよね。

活字表現を、宣伝の1つとしてとらえる、ということですね。

濱野:今でも十分、そういう側面はあると思いますが、もっとあからさまに、はっきりと、そういう側面をプッシュしていくような感じですね。

 これとは別に第2の考え方として出てくるのは、今、話題になっている「クラウド」の方向です。とにかく全部のコンテンツをクラウド上に置いて、一切コピペできない環境(アーキテクチャ)を作ってしまえば、これはこれで成立するんじゃないか、と。こういう議論が、私が身を置いているITの世界からは出てきています。

 たとえばケータイゲームの「グリー」などは、明確にそっちの考え方なんですよね。例えばケータイで「釣りゲーム」をやるとき、「釣りざお」とかのアイテムはサーバ上に置かれているのであって、それはコピーできないし、不正に盗むこともできない、と。

小田嶋:その点、テキストはあまりにもコピーが簡単すぎるんだよね。

濱野:活字という時点でそもそも簡単で、そこがボトルネックでもあり、突破口でもあり、という複雑な状況ですね。

小田嶋:言葉や文章というのは、テキストにしちゃった瞬間にいくらでも無限複製が可能になるでしょう。そうするともう、クラウドに上げる、という話でもなくなってくるんじゃないかな、というのが俺の考え。

 ただ、評判資本って、これもあやういですよね。グルーポンのお節料理事件のように、どんなにコツコツと積み上げてきたとしても、一度、炎上的な騒ぎになったら、一瞬でおしまいでしょう。

次ページ 「日本に上陸したとたん世間メディアになっていく」