濱野さんはインターネットを深く研究し、その世界を熟知していても、ソーシャルメディアには個人的になじめないからミクシイなどには参加しない、とおっしゃいました。その意味で、個人主義かそうじゃないかで、コミュニケーションのツールがぱつんと分かれる、ということはないですか。

ネットは弱肉強食の世界をさらに強調する

濱野:個人主義という言葉をどうとらえるかで話は違ってくると思うのですが、例えば勝間和代さんのような、個人の名前を出して仕事をするのは当たり前という人にとっては、ブログやツイッターを使ってネット空間でも知名度を上げていく効果がある。でも、そんなことをする必要がある人は、ほんの一握りですよね。そういう人たちにとっては、また別のコミュニケーションツール――たとえば匿名掲示板の「2ちゃんねる」のようなもの――が必要になる。実際、いまのインターネットの生態系というのは、そうした棲み分けが進んでいると思います。

勝間さんは個人主義というより、個人資本主義という例だと思いますが、その場合は、ネット上の各ツールは、階層分化機能というよりは、知名度増強機能とか、タレント補強機能となりますよね。

小田嶋:ちょっと横道に逸れるんだけど、濱野さんはツイッターやブログなんかの発生や生成過程を、生態系の食物連鎖になぞらえて分析しておられますが、普通のリアルな生態系では、例えばヒツジが300匹にオオカミが5匹で釣り合う、といったライフゲーム的なバランスがあるじゃないですか。けれど、ネット空間の食物連鎖って、もっとそれを極端にする話なんですよね。だから、勝間和代1人に4万人のフォロワーがいる、みたいな感じで。

 でも、そこで考えるのは、勝間和代の情報は俺の情報の4万倍の価値があるのか、ということ。俺は、そんなことはないだろう、とは思うのね。それを考えると、インターネットというのは何か、弱肉強食をさらに強調するような気がしますよね。

濱野:これはよくロングテールの議論で言われるのですが、例えば「グーグル」などで、どこのサイトが一番リンクされているのかを調べてみると、まさに極端な弱肉強食の分布になっていて、中間層がないんだと。そこには1%の極端に強い人と、99%の全然ない人という両極に分かれて分布してしまう。

小田嶋:これがリアルな世界で、例えばおいしいラーメン屋さんだったりすると、流行っているラーメン屋さんと、あまり流行ってないラーメン屋さんの差って、せいぜい10倍とかでしょう。実際に「ラーメン」という商品があって、それに対して値段が付いていて、おいしい、まずいということがある限りにおいては、いくら売れているラーメン屋さんだって、売れてないラーメン屋さんの2000倍も2万倍も売れるわけはないんですよ。

濱野:店の面積には限りがありますからね。

面積という制約が、とてもおいしいラーメン屋さんから、普通のラーメン屋さん、あまりおいしくないラーメン屋さんまでを、地域にそれぞれ存在させてくれるんですね。

小田嶋:だけどネットだと2万倍の差がつく。何かその辺が、逆に気持ち悪いんですね。

濱野:空間的・物理的な制約があると、極端な弱肉強食は働かないんだけど、バーチャルな空間で、物理的制約を外しちゃうと一極集中が起きやすくなるというテーマは、複雑系の世界でもよく議論されているところですね。そしてそれを止めるための手段というのは、いまのところあまり解答がないと思います。

「いや、換金する方法を誰かがみつけるんです」

ただ、ネット上でアクセスがすごくある人がお金を得ているか、と言えば、現段階ではそうとも言い切れないわけでしょう?

濱野:これはまた違う論点になるのですが、最近だったら「評判資本」というものですよね。最近、大事なのは評判であってお金ではない、みたいなことが言われ出している。みんな、お金のためじゃなくて評判資本を得るために働くようになるんだ、と。

小田嶋:いや、それは換金する方法を、きっと誰かが見つけるんですよ。

濱野:そうかもしれませんね。

小田嶋:例えばテレビに出るときの出演料って、実は意外なほど安いんですよ、ということがあったにしても、テレビで稼いだ知名度というのは、田舎の公民館で換金できる、とか何かがあったりするわけですよ。

濱野:そういう仕組みは働いていますよね。

小田嶋:フォロワーが5万人いますよ、というようなネット上の知名度というやつは、そこでは直接お金にはならないんだけど、別のどこかでお金に換える方法がちまちまと発生するはずなんです。

(さらに続きます)

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「人生の諸問題」は4冊の単行本になっています。刊行順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』(以上講談社刊)『人生の諸問題 五十路越え』(弊社刊)

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