「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)

 本記事は2011年4月18日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

 小田嶋隆さんと濱野智史さんの対談シリーズも佳境に入り、今回はその4回目となりました。

 お茶の間で家族そろって見るテレビと、個人が勝手につぶやくツイッター。これまで「マスメディア」と「ネット」はメディアの特性が全く違うので相性が悪いといわれてきました。でも、今回のお二人の会話では、どうもそうではなくて、ツイッターが作り出すネット上の“お茶の間感”が、マス・コンテンツの魅力を高めているようです。

 ツイッターのタメグチ感覚が作り出す壁とは? 「評判資本」って? 今回もネットの生態系を濱野さんと小田嶋さんの会話で読み解いていきます。

前回から読む)

小田嶋:この間会った、あるおじさん――って、評論家の平川克美さんですけど、平川さんが「昨年末の『NHK紅白歌合戦』が久しぶりに楽しかった」と言っていました。

なぜかと言うと?

小田嶋:それは「ツイッター」のおかげで、ツイッターのタイムラインに「この歌手、誰だ?」とか「聞いたことねえぞ」とか、フォロワーがみんなワイワイ参加してきたからだ、と。「紅白歌合戦」って、本チャンの中身はあまりにもつまらないので、もう10年ぐらい見てなかったそうなんだけど、今年は久しぶりに楽しめたそうです。

濱野:それは「ニコニコ動画」みたいな感覚で楽しんだということですよね。

小田嶋:そうそう。ツイッターはそういうところがありますよね。

濱野:完全にあります。ツイッターのハッシュタグはかなり「ニコ動」に近い感じですね。(注・ハッシュタグとは、ツイッターの中で、あるトピックに特化して、やり取りが交わされる場のこと)

ツイッターで見直されるマス・コンテンツ

小田嶋:俺は1990年代に、「紅白」の衰退について、どこかにコラムを書いたことがあって。なぜ「紅白歌合戦」がこんなにだめになったのかと言うと、それは歌のせいじゃなくて「紅白歌合戦」というものを共有する「茶の間」というものが解体したからなんだ、と。まあ、茶の間は完全に解体したけれど、めぐりめぐって今、ツイッターで擬似的な茶の間ができてきた、ということですよね。

となると、「紅白」は大勢で見るとわりと面白いものだ、という原点に帰る。

濱野 智史(はまの・さとし)
1980年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院・メディア研究科修士課程修了。専門は情報社会論。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員を経て、現在は、インターネット関連コンサルタントの「(株)日本技芸」でリサーチャー。主にウェブサービスにおける情報環境の分析や、ネットユーザーの実態調査を行う。著書『アーキテクチャの生態系』で第26回テレコム社会科学賞・奨励賞を受賞。(写真:陶山勉、以下同)

濱野:そうなんです。ツイッターのハッシュタグが、まさしくニコニコ動画のように、「みんなで『いま・ここ』を共有する」というお茶の間的な役割を果たしていて、ツイッターによって逆にマス・コンテンツが見直されていく機運すらありますね。

小田嶋:濱野さんのご本(=『アーキテクチャの生態系』)でも、西村博之の言葉の引用として、「『ニコ動』は、つまらないネタを面白くする装置だ」を紹介しておられたけど、確かにそんな感じですよ。

濱野:それは今、非常に重要な論点です。と言うのも、インターネットが新たなメディアとして語られるとき、通常のイメージですと、よくあるのは、「マスメディアvsネット」という対立の構図ですよね。その意味で言うと、今までの「マス」は「紅白歌合戦」みたいに、マックスでいくと本当に同時に1億人ぐらいが見るぞ、みたいな強力な装置でした。対してネットというのは、ホームページでもツイッターでも、みんな好き勝手にバラバラなことばかりつぶやくから、趣味も興味も時間軸もどんどん拡散し、どんどん多様化する、というイメージだったわけです。

 しかしここ数年、少なくともニコニコ動画やツイッター、もしくは「ユーストリーム」とかを入れてもいいんですが、リアルタイムな時間を共有するサービスが結構出てきました。そのことによって、ツイッターを使っている人が「紅白歌合戦」を見ると、つまらなかったはずのものが逆転して面白くなる、というように、マスメディアとネットの「相性の良さ」が新たに発見されるようになってきたわけです。すると、それまでの「マスvsネット」という、特性が違うメディアが対立する、というイメージがずいぶん変わってこざるを得ない。

小田嶋:「紅白歌合戦」の話題が世間でもちょっと復活したのは、もしかしたらそれがあるのかもしれない。ああいうのって1人で見ていても絶対につまらないから。

濱野:そういう事例は増えていますよね。最近、私が見聞きしたケースで面白かったのは、NHKがラジオで「アニソン三昧」を流したときですね。

どういうものだったんですか。

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