小田嶋:出過ぎた真似をした咎。
岡:そうか。クリエイティブディレクターが、クライアントよりも目立っちゃったという。気を付けないとね(笑)。
小田嶋さんは某食品企業勤務のとき、武家社会的な不自由さを感じましたか。
小田嶋:俺はもう、そういうのに、全然適応できなかったから。(「人生の諸問題」シーズン1、「息子」と「宴会芸」と「君が代」と参照)
某食品企業は、武士的な集団でしたか。

小田嶋:いや、そんなでもなかった。今思えば、むしろ、わりと緩い組織だった。なのに俺は何とかして辞めたくて、それで8カ月で手を打ちました(笑)。
振り返れば、就職先としては理想に近かったんだ。
小田嶋:今から思えばそうでした。
岡:小田嶋を採用しているんだから、そんなに堅くはないよ。だいたい一目で分かるもん、こいつは協調性はないぞ、って。
小田嶋:だよね。ですからご迷惑をお掛けしたと思います。すみません。
本当ですね。
岡:僕は、電通では入社1日目にみんなで「同期の桜」を歌わされて、軍国主義みたいな感じで、びっくりしましたけどね。
小田嶋:当時は吉田秀雄の「鬼十則」って、まだまだ生きていたんだろうけど。
岡:今もそうです。
小田嶋:とりわけ岡が入った当時は、それが色濃く残っていた時代じゃなかったかね。
岡:全然色濃かった。「○○局」という部署名も、当時は電通ぐらいしかなくて。営業のことを「連絡」と言ってました。営業で入った僕は、連絡という呼び方が小学校の連絡係みたいで恥ずかしいな、と思っていたけど、あれ、軍隊の用語でさ。軍隊に連絡将校というのがあって、情報戦になるとその連絡将校が一番力を持つんですよ。それと、「局」というのは新撰組からきた流れなんだ、というような組織論を聞かされましたけどね。
じゃあ、軍隊的な組織だったんですね。
岡:非常に軍隊的だった。
軍隊的ということは、武士的でもあったんじゃないでしょうか。
岡:でも、やっていることは武士じゃないんだよ(笑)。
小田嶋:やっていることは、軍のブローカーみたいな。
組織が求めた、「サムライのような」人材
それでも日本の組織って、武士的なメンタリティを必要とするんですね。
岡:そうなんですよ。だって、武家社会は結局、300年も続いた、一種、磐石な体制ですからね。
小田嶋:そうだよね。
岡:電通は、戦後にB級戦犯みたいな人を大量に雇用したらしいんだ。
小田嶋:戦争に関わった人々を実際に。
岡:そういう人たちって、理屈で言えば、本来、出来はいいわけです。戦犯になったということは、考えてみれば、それなりの要職に若くして就いていた人、ということだから。そういう人を大量に採って、強力な組織作りをしたんですよ。
企業におけるマキアヴェリズムですか。
岡:今だったら、例えばITベンチャーで失敗した連中ですよね。ホリエモンとか。
小田嶋:村上某とか、板倉某とかを束ねてあれしたら、かなり優秀なチームができますよ。そういうのって日本人のメンタリティでは、なかなかできないものだけど。
岡:「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」というアメリカ映画では、一流の詐欺師がFBIの顧問に迎えられて、詐欺を摘発していた。実在の人物が書いた本が原作なんだけど、つまりその作者は詐欺師でFBIの顧問で、しかもベストセラー作家。
ちゃっかりと。
小田嶋:日本人はそういうことが基本的に苦手だよね。世界でいうと、ラテン系ならラテン系の、ゲルマン系ならゲルマン系の、アングロサクソン系ならアングロサクソン系の、文化的に築き上げてきた美意識ってやつがあるわけでしょう。例えばアングロサクソンだと質実剛健とか、ラテン系だと快楽優先とか。
でもアメリカって多民族国家になっちゃったから、アメリカ人として一番カッコいい姿って何よ、といったときに、取りあえず、「お前の年収、いくらよ」みたいな話になるんだよね。それで拝金主義とか、車だったら意味もなくでかいのがエラいとか、そういう一番プリミティブなものが表に出てきちゃう。アメリカはそうやって、とても単線的になっちゃいますけど、日本は日本で、やっぱり何かに殉ずるということがどうしても好きなんだよね、お百姓ですら。
それは小田嶋さんの中にもありますか。
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