高木:そういうことを僕は経験しているので、何も始まっていないのに批判するとか、冷笑するとかはしませんでしたよ。岡田ジャパンはメンバー構成で、昨年の新人王、得点王、MVPを3人とも外しましたよね。そのことも含めて、メンバーの選び方から戦略の立て方にいたるまで、とにかく課題だらけで、普通だったら選手からも不満が出る中で、それらを抑えて、みんなが最後に泣くようなチームになった。そこは評価するべきですよ。

 記者会見のときに、「上から23人うまいやつをそろえるんだったら簡単だけど、これはチームなんです」と言っていたけど、彼は組織のつくり方というのを分かっていた。それは素晴らしいことだし、やっぱり大した監督だったということです。

野球とサッカーのチームのつくり方は違いますか。

高木:一緒、一緒。

:一緒だよね。

高木:組織をつくるときの原理というのは、野球も、サッカーも、バスケットボールも、どんなものでも一緒ですよ。スポーツだけではなく、会社もそう。エリートばっかり集めたって、そこで活躍の場を与えなかったら、腐ったみかんが出てきて、やがて全体がおかしくなっていく。

:それと、日本では報道が稚拙だよね。報道のセンスというのに関しては、高木ともよく話をするけど、ワールドカップではフランスとイタリアが早々に負けたでしょう。それで、ブルーのユニフォームというのは日本だけになっちゃった。そのときに、スペインかフランスかの新聞は、「新しい青の誕生」と書いたんです。

その見出しの差は、面白いけれど悲しい

日本を持ち上げたんですね。

:同じ日の日刊スポーツでは、パラグアイの選手が2人故障していたことを取り上げて、対パラグアイ戦に向けて「パラ不具合」(笑)。これ、ヨーロッパと日本との報道の差なんだ。

悲しい。

高木:面白いけどね。

:面白いけど、ぐっとは来ないじゃない。何でヨーロッパの方でぐっと来て、こっちで笑ってないといけないんだよ。

それ、広告評表現と通じますね。

:通じる、通じる。本当にそうですよ。

高木:すべてだじゃれ、おやじギャグになっちゃうという。まあ、パラ不具合、面白いけど、「新しい青」と「パラ不具合」を並べて、どっちを買うかといった、やっぱりカッコいい方を僕は買うよね。

:それはそうですよ。

高木:今年のワールドカップでもつくづく感じましたけど、スポーツだって個人ではもう勝てない時代になってきていますね。やっぱり組織で勝たないと。

:別に日本だけじゃなくて、世界中でそうなっているよね。

高木:アルゼンチンの、あのメッシでも活躍できなかったでしょう。チーム運営に組織論が必要なのに、日本の野球界はまだそのことに気付いていない。

そこに戻りましたか。

高木:プロ野球以外の世界、世の中や社会を知らない人間が多すぎます。野球選手の頭は、野球に対しては優秀かも分からないけれど、一般社会に出て通用する頭かというと、それはまた違う。プロとして食べていくのであれば、社会人としての勉強もしなければ、これからはおぼつかないですよ、というのが僕の持論。

:でも、今までは伝統的に日本のプロ養成とはそうではなかった。相撲なんかは最たるものだよね。

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