「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)
本記事は2010年10月18日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
(日経ビジネス電子版編集部)
いつもご愛読ありがとうございます。編集Yでございます。後編の前に、横浜ベイスターズに触れた前編をお読みいただいた読者の方から、こんなご意見をいただきました(前編→「『ベイスターズ売却!?優勝を目標にしたりするからです!』」)
高木豊さんが橋本選手について「里崎というレギュラーキャッチャーが別にいたからで、先輩がいる、という安心感があったからこそ、若手として思い切ってプレーできていた」という発言をされていましたが、里崎選手と橋本選手は同学年のため、少なくとも「若手として」というのは誤った見解だと思われます。
さっそく高木さんに問い合わせたところ、以下の回答をいただきました。
「プロ野球界では、年齢の上下に関係なく、実力や実績で序列を語る意識があります。その意識で、(レギュラーキャッチャーを務めていた)里崎選手は橋本選手にとっての「先輩」、そして橋本選手を「若手」と表現しましたが、確かに両選手は同年齢ですので、僕の言い方は言葉の誤用という側面もありますよね。『日経ビジネスオンライン』のような媒体でお話する時は以後、注意したいと思います。ご指摘をありがとうございました」
さて、ベイスターズ売却の報に接し、落胆を隠しきれなかった岡さんですが、今回はちょっと時間を戻して、サッカーのワールドカップから話は始まります。あれほど日本中が熱狂したワールドカップですが、高木さんからは厳しい言葉が次々と…。スポーツだけでなく、ビジネスにおいてもプロが戦うことの意味を教えてくれます。(編集Y)
岡:今年のスポーツといえば、やっぱりサッカーのワールドカップで盛り上がりましたよね。
高木:当然見ました。寝不足になりましたよ。
岡:今から思うと、日本はよくやったよね。
高木:はい、戦い方が素晴らしかったですね。
今、ちょっとプロ野球解説のノリが入りました。

高木:いや、戦い方は素晴らしかったし、やっぱりスポーツの定義とは感動のことだから、その感動を与えたという面でもよかった。でも、岡田監督は「目標はベスト4です」と、公に言っていたでしょう。その公約は破られているんです。それで、なぜ日本は許すのか、ということですね。
高木さん的には許していないですか。
高木:だって守られなかったじゃないですか。
岡:でも「ベスト4」は「公約」じゃなくて「目標」でしょう?
高木:目標は達成するために言うわけですし、選手のモチベーションだって、そこにあったはずです。
岡:ただし本当のことを言えば、ベスト4になれるなんて誰一人思っていなかったよ。
高木:岡田ジャパンが与えてくれた感動に対しては、僕も素直にありがとう、と言いますけれど、でも、うそつきはよくないと思うのね。
岡:思うのね、って言ったって。
高木:だって「ベスト4に入る」という言葉は、子供たちだって聞いていたわけですからね。
岡:とはいえ、「僕たちはベスト4を目指します」と言ったところで、日本中誰もが、そんなことは信じていなくて、とにかく1次予選を突破できるのか、というところに、国民は争点を置いていたと思うんです。だって、どうせ全敗しちゃうんだろうな、というのが大方の見方だったから。
高木:僕の予想も全敗だった。
岡:でしょう。だけど岡田ジャパンは勝った。特に初戦でカメルーンに勝った、と。トータルでも2勝1敗1分けだったでしょう。記録は2敗かもしれないけれど、PKなんだから、あれはゲームとしては引き分けですよね。それで日本が2勝1敗1分けでワールドカップから帰ってきたら、やっぱりみんなは拍手をするよ。
言われ過ぎくらいでないと、成長もできない
高木:それは、日本の考えているサッカーのレベルがそれだけ低い、ということの裏返しでもあると僕は思うんですけどね。
岡:まあ、そこはね。
高木:だって、これ、例えばWBCで野球チームが「優勝します」と公言して、ベスト4で帰ってきたら、誰も見向きもしませんよ。なぜかというと、日本野球のレベルの高さが前提としてあるから。
岡:そうだね。
高木:ですから、その辺りからして日本でサッカーというのは、まだまだだな、というように思いましたね。僕、言い過ぎですか?
いえ。どんどん、おっしゃってください。
高木:だってスポーツというのは闘いなんだから、そこに厳しい目がないと、レベルはいつまでたっても高くならないですよ。ワールドカップの後に、本田がいいことを言っていましたよね。批判をしてくれた人たちも、応援してくれた人たちも、どちらにも感謝したいって。
岡:あいつは立派だったね。
高木:僕もそうだと思うんですよ。批評、批判がないと成長しないし、あの結果を成功だと思えば、そこまでです。駒野だってそうです。最後にPKを外したのに、マスコミで主役みたいに扱われちゃって。駒野、かわいそう…なんて、冗談じゃないと思うよね。
高木さんはあのPKのときは怒っていたんですか。
高木:お前、なんで、ここで外しているんだよ、ふざけるな、ってテレビを見ながら怒っていました。だって、ここで入れなきゃどこで入れるんだ、という話でしょう。今までお前は何をやってきたんだ、と。
岡:厳しい。
ですね。
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