小田嶋:出版界はとりわけ早稲田って多いでしょう。それで仕事で会ったりするおじさんが、「あ、君も早稲田か」と言って、すごくうれしそうな顔をするんだけど、あれは半分は懐かしさで、半分は違うと思うわけよ。

:どう違うんだよ。

小田嶋:後の半分は計算なのよ。例えば早稲田出身の編集者と早稲田出身のライターで、互いに便宜供与をしながら、スクラムを組んで、このせちがらい出版界を渡っていこうぜ、みたいな思惑がある。

 わざわざ口に出して言わないけれど、何かいい話があった時、仮にライターに慶應出身、上智出身、早稲田出身がいたら、早稲田のやつに回してやった方が、後々、自分に返ってくるよな、的な。

:確かにマスコミに早稲田は多いんだよ。

小田嶋:慶應は商社とか銀行とか損保とかに、先に決まっちゃうから。

:そこに大量に引っかからないのが早稲田なのか。

小田嶋:だいたい慶應からマスコミに行くなんてのは、そもそも間違って慶應に入ったやつですよ。そのついでに言うと、早稲田は数だけど、慶應には学校文化みたいな感じが、明らかにあるのよ。

:だから慶應のよさというのは、要するに豊かさでしょう。

小田嶋:そう、ある程度の学力と豊かさがあるわけだから、もうそれ以上何も望むことはないでしょう、という。あともうひとつの差は、やっぱり慶應の人たちって、福沢諭吉を尊敬しているの。それで我々は大隈重信をまるで尊敬してないの(笑)。

:そもそもよく知らなかったりする、と。同じ佐賀出身の僕としては、悔しい限りなんだけど。

福沢諭吉、電通、入ってます

小田嶋:大隈さんは佐賀藩、福沢さんは大分の中津藩。同じ九州出身で藩の格から言えば断然佐賀藩なんだろうけど、福沢さんは、経済方面および教育方面の方の人で、大隈さんは政治方面に行ったでしょう。その針路の違いというのは、今にいたるまで、大きな影響を及ぼしているよね。

:藩で言えば、中津の方が全然マイナーなのに。

小田嶋:福沢諭吉という人は、「社会」とかああいう文明開化的な言葉をいろいろ発明していて、「文明論之概略」とか「学問のすゝめ」とか、ベストセラーも作って、そういうPRのうまさがあるでしょう。今日びの経済人でも、「福沢諭吉を尊敬しています」という人はそこら中にいるんだよ。

:その点、大隈重信関連の本って、別に売れてないもんね。

小田嶋:大隈重信というのも、あれはあれで偉い人なんだけど、福沢さんみたいに説明の上手な人じゃなくて、何か不機嫌なおやじじゃない。

:だって武士だから。

小田嶋:あんまり自己宣伝するような人じゃなくて、だから銅像でもすごく不機嫌な顔で立っているじゃん。

確かに、早稲田構内にある銅像の顔はいただけませんね。

大隈さんの銅像の周りは、かつてタテ看の嵐でしたが、今はすっかり小ぎれいになってます。

小田嶋:あれがやっぱりアピール下手なところなんですよ。その点、福沢諭吉というのはあれですよね、平賀源内と並んで、メディアの人ですね。

:電通、入っていると思うね。「天は人の上に人を造らず」って、天才コピーライターの仕事だね。

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