「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)

 本記事は2014年9月18日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

(前回から読む

前回は、大学デビューの孤独と自由について語って終わりましたが、岡さんは、苦学してからの食事はどうしていたんですか。

:食事は厳しかったですね。基本、昼は学食です。大隈会館の中と、西門を出たところの生協近くの、あと文学部に学食があって、時間さえあれば文学部に行って食べたいな、と。

何か理由が?

:だって女子が多いんだもん。

小田嶋:女子が多いせいか、文学部の学食の方が、全然ちゃんとしていた。安さで言えば、生協近くの食堂が一番安いんだけど、それゆえにやばかった。

:そう、学食間でも格差があった。僕は文学部に行きたいんだけど、結局どこで一番食っていたかと言うと、小田嶋が言うところの一番やばいところの学食ですよ。

小田嶋:Aランチ、Bランチという普通のランチとともに、「早稲田ランチ」ってあったでしょう。

:あった、あった。150円ぐらいじゃなかった?

小田嶋:今の貨幣価値で言うと300円ぐらいでしょうかね。

安い。

激安!リサイクルランチ

小田嶋:それで、例えば今日のAランチがコロッケとサケフライだとしたら、明日の早稲田ランチがそれなんだよね。

おつとめ品なんですね。

小田嶋:そう。コンビニの裏口のようなランチ。そうやって、学食のランチは時系列で売られていましたね。その仕組みを思い出したのは、今日の収穫でしたね。

これが今の早稲田の学食ランチ。さすがに早稲田ランチなるものは、もう売られていませんでしたが、コインランドリーと見まがう雰囲気は35年前と、ほぼ変わらず。さすが早稲田!

:早稲田ランチは確かに昨日の残り物だったんだけど、横にへなへなになったナポリタンみたいな不思議なものも付いていた。それにご飯を合わせるって、炭水化物VS炭水化物。

小田嶋:まだパスタという言葉が発明される前の時代だから、関係ないんだよ。あのころ、西門をすぐ出たところに、まだできたばかりの吉野家があったよね。それで、当時の牛丼は、ちゃんと300円していたんだよ。

:早稲田ランチは牛丼の半額だった。

小田嶋:当時、牛丼というのは貧乏人が食べるものじゃなかったのよ。

:早稲田にとっては、ちょっとしたぜいたくだよね。

小田嶋:今日は牛丼だ、という時は、すこし高揚感を覚えたものだった。

……。

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