今回の早稲田放浪編で歩いたところは、村上春樹が描いた早稲田界隈でもありますよね。
小田嶋:和敬塾とか、早稲田の商店街とかね。でも、『ノルウェイの森』にしても、あれを読んだ時は、やっぱり東京以外から出てきたやつの早稲田だな、と思ったよ。
そうだったんですか。
小田嶋:うん。あれは下宿で独り住まいしているところの、孤独と自由を持っているやつの早稲田ですよ。だって我々は自宅から通っていたから。
岡:都立家政の話とかが出てくるんだよね、異国のように。
小田嶋:やっぱり青春というのは孤独と自由がないとだめでしょう。それは分かっているんだけど、俺たち、それがないわけだから。夜の11時に母親に電話して、「今日、ご飯いらないから」とか言っている。カッコ悪いったらありゃしない。
岡:孤独もなければ自由もない。
小田嶋:そこで下宿組にすごくばかにされるんだけど、そいつらは半年前に大学に入ったばっかりの時は、喫茶店でビビっていたんだよ。
岡:ウインナコーヒーを頼んで、「ウインナーはどこにあるのかな」と(笑)。
小田嶋:シナモンティーって、「どうするの、この木の棒を?」というやつだよ。
岡:受験の日に新宿駅にうわっと人が集まっているのを見て、「ああ、今日はお祭りがあるんだ」と思ったんだって。
小田嶋:でしょう。それが悔しいことに、半年後に全然、逆転するんだよ。「何、お前、おふくろなんかに電話してんだよ」とか言って、大人ぶられてしまうんだから。
それは釈然としないですね。
小田嶋:釈然としないですよ。
でも、お父さまの破産で、岡さんは大学1年の後半から、孤独と自由になったんじゃないですか。
岡:孤独でしたけど、それは自分のいる土地をずらして孤独になったわけじゃなくて、家族が周囲から、ただいなくなっただけだから。家族はいなくなったけど、小田嶋はいるし、コヤナギはいるし、何もかもそのままなんですよ。だから、孤独でもないですよね。
小田嶋:地方組は孤独というのもさることながら、1回人生をリセットしているわけよ。田舎の高校のガリ勉だったかもしれないし、あるいは意気地なしだったかもしれないけれど、それらを全部リセットして、一から人格を作り上げている。
リセット幻想
岡:まさに大学デビューですよ。俺たちはいくらデビューしようと思っても、周りがみんな知り合いなんだよ。どの学部にも知っているやつがいるわけだから。
小田嶋:学内を歩いていると、商学部のソネが「おお、何しているんだよ」とかって、来ちゃうんだから。(→ソネ氏の話は早稲田放浪編の第1回で。)
岡:ということは、急に違う格好はできないじゃないか。
小田嶋:みんなサーファーの格好を始めた時期があったでしょう。俺も始めたんだけど、「あれ? お前、サーファー、やっているの?」 と言われて、すぐやめちゃいました。
岡:だから僕らも京都の大学に行っていれば、村上春樹になったかもしれない。
小田嶋:なったかもしれないよね、全然。
岡さんが、はんなりした京都弁で小説を書く。小田嶋さんが、梅原猛先生の後継となってサントリー学芸賞を獲る。
岡:そう言われると、あり得ない運命だって分かるけど。
じゃあ、岡さんは電通関西支社に入って、キンチョールの宣伝を担当する。小田嶋さんは中島らものライバルになって、アル中対決をする。
岡:結局、あんまり変わらないじゃないか……。
(第3回に続きます。)
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