:夏休みはあまりに暑いから、アメフトも練習がなくなる。それで、やつらから誘われて、じゃあ行こうかなって。で、驚いたのは、そいつらが母校の高校で講演をするというんだよ。それで、学校に一緒に行ったら、校門に「●●さんご講演」みたいに看板まで出ていて、全校生徒が集まっている。

小田嶋:学生の分際で?

:ともかく、その学校から初めて早稲田に進学したということで。

小田嶋:立志伝中の人物なのか。

:それで僕は変な立場で付いていっちゃっていたわけだけど、「ご友人の岡康道さん」なんて、その学校で一緒に紹介されちゃうの。

小田嶋:もしかして壇上に上げられたのか。

:壇上ですよ。上げられちゃうと、「共に学業に励んで、何年後かには共に弁護士になりたいと思っています」みたいなことを言わないと、収まりがつかない。だから、心にもないことをしゃべりましたよ。

小田嶋:末は博士か大臣か系の話だね。

明治時代のような物語が、岡さん・小田嶋さんの時はまだ生きていたんですね。

小田嶋:最後の最後であったかもしれないけど、田舎から来た中には、そういう物語を背負っているやつがいましたよ。

:それって暑苦しいでしょう。

小田嶋:そう、その暑苦しさは独特のものがありますね。

:うざいですよ。やる気があり過ぎるやつらは。

対して、都立校のメンタリティーというのは、どういものだったんですか。

村上春樹に感じた、地方出身者の目線

:踏み込まない感じは、明らかにありましたよ。同意するにしても、何となく気乗りしないような同意、みたいな感じで。

小田嶋:ですよね。勉強もしてないふりをする。本もこれ見よがしには読まない。

裏地に凝るパターンですね。

:そう、江戸時代じゃないけど、そっちの方が粋なんだよ。

小田嶋:そう思っていたのが、早稲田に行くと、「あいつは分かりにくいよね」みたいな風に扱われる。

:全国から集まっちゃうからね。

小田嶋:俺なんかにとっては、庄司薫が『赤頭巾ちゃん気をつけて』というところで描いていた世界が、都立高校の一種美化した世界ですよ。あれを読んで、「俺もああならなきゃいけない」と思ったわけだから。

:少なくとも、気分は『風の歌を聴け』ではなかった。

小田嶋:村上春樹は、もういいかげん大人になってから読んだから、「うまいな、この人」と思うけど、別に影響は受けていないのよ。でも庄司薫からは、もろに受けている(笑)。

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