小田嶋:ビニ本って要するにエロ本なんだけど、当時、早稲田の生協に行くと、「早稲田微に入る本」という本が置いてあって、早稲田内でベストセラーになっていたの。

:ひどい駄洒落だね。

小田嶋:早稲田の歴史だとか、早稲田に入ったらこれをやろうとか、学生のための早稲田入門書みたいな、学校関係者が編集した本だったんだけど、俺はセンスの悪いイヤな本だな、と思って。

:それ、買ったの?

小田嶋:買ってはいないけど、みんな持っていたから読んだんですよ。それって早稲田にこれから入ろうという子たちが読むような本でもあるんだけど、入ったやつも読んでいる、というのが早稲田というところで、みんながそれを読んで早稲田頭になっていく感じが、とても馴染めなくて。

 俺は慶應というタイプでは全然ないけど、こっちになっちゃいかんぞ、ということをすごく思ったのを覚えていますよ。

結局、小田嶋さんは、どこにも居場所がないのね。

小田嶋:……。

岡さんはどうでしたか。

学友の母校で、壇上で挨拶する羽目に

:僕は法学部だったでしょう。法学部の地方出身者というのは、ものすごく「俺の空」になっているわけ。

小田嶋:でしょう。

:入学したその次に、今度は司法試験があるじゃない。入ってすぐだから、ものすごく勉強をしているわけじゃないんだけど、1年、2年の時は、野心を目いっぱい膨らませている時間なわけ。あれほどうざいものはないよ。

小田嶋:慶應になくて早稲田にあるのは、そういう雄弁会的なものですよ。法律をやっていても政治家志望みたいになってしまう、というのは困ったことだよ。

:法学部は司法試験に受かるための「法職課程」というカリキュラムがあったんだよ。法職課程というのは、普通の法学部の授業の後に、夜7時くらいまで授業が続くんです。

小田嶋:教育学部で仲のよかったやつが、一瞬自分も司法試験を受けようかな、という気持ちを持っていたのよ。そいつはもともと勉強のできたやつで、東大法学部に入るはずだったのが、風疹にかかって受験を棒に振って、早稲田の教育だけ引っ掛かって入ってきたやつだったの。

:それは無念だっただろうけど。

小田嶋:それで、来年も東大を受けるとか、司法試験に受かるんだとか、いろいろ目標を立てて葛藤に折り合いを付けていたんだけど、大学時代に同棲しちゃって。

:だったら、すべてだめになったんじゃないの。

小田嶋:そう、結局、だめなやつになって、自然に折り合いが付いた。

:僕は大学1年の時に、秋田と群馬の友人の実家に行ったことがあるんですよね。

小田嶋:なんで?

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