:だからこそ、ああやってみんなで集まって、せえの! で吉良を殺したんじゃないのかなって。それで、腹を切る話になったときに、えっ、違うの? みたいことになったんじゃないかと思っているわけ。

討ち入りはリストラ対策だった、と。

:そうでないとおかしいんだよ、あの話は。

いや、いくら何でも。

:だって怒りや復讐心って、あれだけの長い時間がたったら、薄まるよ。あの野郎、ぶっ殺してやる、みたいな短期間の怒りや復讐心は、僕らの中にもあるじゃないですか。殺さないけど。でも、その怒りって、やっぱり時間とともに薄れていって、最終的には、よし、知らないふりをしようとか、今度会っても目を合わせるのをやめようとか、そういうことで決着するわけでさ。

小田嶋:でも忠臣蔵の物語って、怒りとか復讐とかではなくて、あれ、体面なんだよ。

:体面ね。

小田嶋:武士にとって体面というのは絶対的なことだから、主君を切腹させられて、残りの30年なりの人生をおめおめと生きていく家来というのは、耐え難いわけで。だったら、いっそ敵を討って腹を切れば、後世の人間に「立派だった」と言われるんじゃないかという、そういう体面なんだろう。

:そっちの説の賛同者の方が多いと思うんだけど、俺がもし「忠臣蔵」の大石内蔵助だったら、絶対に再就職を考えて、そういうプレゼンテーションを他の46人に対して行っているんじゃないかなと。

なるほど、プレゼンを。

:そう、プレゼンだよ(笑)。

ダメな司令官は後ろから斬ってよし

小田嶋:「忠臣蔵」の原理は確かに不可解なところもあって、藤沢周平も「忠臣蔵」を別のところから題材にした渋い連作を書いているけど。

:というのは、浅野内匠頭の死にしてもさ、吉良ではなく、内匠頭の方に非があったわけでしょう。

そもそもそうですよね。

:抜刀を固く禁じられている御殿の松の廊下で刀を抜くなんていうことはさ。

ちょっと頭がおかしいですよね。

:頭がおかしい。そういうことをしたら、お家断絶になっちゃうって、分かっているわけじゃない。そこをあの殿は耐えなかったわけだから。

君主としてどうかという人ですね。

:そんな人を名目にしてさ、47人も志のある者が集まれるだろうか。いや、1人や2人はあり得ると思うんだけど。

小田嶋:近代人の組織だったら、上司がばかだったのでプロジェクトが終わりました、こんな上司に付いていた俺の不明を恥じますよ、ということがあるだろうけれども、武士のばかなところって、そのばか上司に殉じちゃうところだよね、美学とか何とかと言って。

:あと白虎隊も絶対に勝てない戦争だったじゃないですか。勝ち目がまるっきりないのに、それに向かっていったというのは、やっぱり上がばかなわけじゃない? そんなばかな戦争の立案者は、後ろから切っちゃえ、となったっていいのに、一緒に死んでいくというのが美しいという話になっちゃうんだよね。

日本はそれを第2次世界大戦まで引きずりました。

小田嶋:そして、負けて変わるどころか、さらに原発とかにも引き継がれたという。

(続きます!)
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