「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)

 本記事は2010年10月4日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

 このたび『ガラパゴスでいいじゃない』で単行本にまとまりました「人生の諸問題」。お読みの皆様の中で、横浜ベイスターズファンの方は、何人くらいいらっしゃるでしょうか。

 本連載の片方の主役、岡康道さんも「ほぼ生まれたときから」半世紀にわたって応援し続けている横浜ベイスターズファン。しかし残念なことに、今年「も」シーズン最下位、という結果に終わりました。そればかりか、球団売却のニュースが!

「残念です…ほかに打つ手はあったはずなのに、手放すなんて最後の最後の手段ですよ」――。ニュースを聞いた岡さんは、こう真情を吐露しました。

 今回我々「人生の諸問題」チームは、単行本にも収録した元横浜大洋ホエールズのスター選手、高木豊さんと岡さんとの対談の続編をお送りします。対談はもちろんこのニュースの前に行われたものですが、この状況下で読み直してみますと、先行きを怖いくらい見抜いたものになっていました。

 発売中の単行本と併せて読んで頂ければ、なぜ、輝いていた横浜大洋ホエールズ、そして日本一にもなった横浜ベイスターズが、身売りという局面に至ったのか、腑に落ちるはず。そしてこれ、会社組織に置き換えても、案外他人事ではない、かもしれません。

:横浜ベイスターズは今年もダメだった。しかも今度は身売り。1998年に優勝してからあとは、もう見るべきものがない。

高木:まったくね。今年は何億円もかけて、16人の補強をしていたわけです。16人といったら1軍の半分強ですよ。じゃあ、その選手が、1軍のメンバーに入ったかというと、外国人選手を除いて、1人も入らなかった。

:例外はあったけど。

高木 豊氏(写真:大槻 純一 以下同)

高木:例えば今年、ロッテから取った橋本が、キャッチャーとしてマスクをかぶったときはありましたよ。だけどそれは、橋本という選手の本質を分かって起用していたのではない。橋本はロッテ時代はレギュラーでもなく、横浜ベイスターズに来て、キャッチャーもできるからって、一瞬、レギュラーに据えられたんです。

 でも、橋本がロッテのときに輝いていたのは、里崎というレギュラーキャッチャーが別にいたからで、先輩がいる、という安心感があったからこそ、若手として思い切ってプレーできていたわけです。それが横浜に移籍して、いきなりレギュラーの責任を負わされたって、過去に1年間レギュラーを経験してない人間には、そう簡単に務められないですよ。

素人の疑問に答えられないくらいの「意味のなさ」

何で、そういう起用の仕方なのでしょうか。

高木:という疑問が普通は起きるでしょう。

:それは橋本だけじゃないんですよ。井出しかり、稲田しかり。それからピッチャーの江尻、篠原だって使い続ければ、もっといい結果が出せた人材なのに・・・。

ほかに人材がいないんですか。

:ほんというと江尻、篠原ぐらいのピッチャーならイースタンにいますよ。だから、何のために採ったのか、というのが最初にある。しかもドラフト1位も活躍していない。ドラ1が、こんなに何年間も活躍しないチームも珍しいよね。

高木:結局、何年も同じことの繰り返しをしているわけです。例えば家が古くなってきたらリフォームをするけど、リフォームをしている間に、別の所も弱くなって、またそっちをいじる。そんなことを繰り返しているんだったら、新築で建て直した方が、コスト的にも、内容的にもよくなって、長持ちする。そういう根本的なことが分かってない。

:だからまず、チーム運営のセンスがないよね。

高木:例えばナン億円もかけた選手補強を失敗したら、誰かが責任を取らなければ先には進めないんだけど、誰も取らなかった。そこが甘いですよね。これがアメリカのメジャーリーグなら、採った選手が活躍できないと、そのスカウトって、クビになりますからね。あるいは、その選手が活躍したら、それに対しての報酬があるけれど、横浜にはなかった。

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