小田嶋:90年代に日本で、アメリカより早く電子書籍が登場したときはまったくはやらなかったよね。

:全然話題にもならなかった。

小田嶋:あと、インターネットが普及した初期は、フランス人がものすごく反発したの。フランス人はやっぱりいいところを見ていたな、と思うんだけど。インターネットみたいなものがアメリカ資本で動き出したら、今でも英語支配なのに、アメリカの言語がますます世界を牛耳っていくんじゃないか、ということを彼らは懸念した。確か「コンピューター」という言葉もフランス語に直して、とにかく、あらゆるいろいろなことを全部フランス語に直していったんだって。

:日本人はすぐカタカナに開いて、全部を受け入れて、英語が使えないことにコンプレックスを感じるでしょう。

小田嶋:フランス人はそれを絶対に許したくないから、あらゆる基礎的な言葉は全部フランス語に直して、パソコンなんていう、そんなヘンな言葉は使わないんだぞ、とがんばったらしい。

フランス語で「パソコン」は何と言うのでしょうか。

小田嶋:何とか言っているんだよ。(注・読者のみなさまの中でご存知の方がおられましたら、ぜひご一報ください)

 とにかく新しい概念ができたときには、国のお役所が全部、新しいフランス語を作っているわけ。ただ、それぐらいやっても、結局、抵抗できなかったんだけど。

:それは無念だよね。

小田嶋:この間、内田樹先生がどこかで書いていたけど(編注:これかな?「リンガ・フランカのすすめ」)、インターネットによって英語支配がますます強くなっちゃって、あらゆる学会に行っても、英語をしゃべれるやつが一番偉いんだ、みたいなことになっちゃっている、と。自分の専門分野の話をするのでも、結局、英語で話せないといけないから、英語の得意なやつと論争すると、「君、それ文法的に違うよ」というところで、優位に立たれてしまって、だから勝負にならないんだよ、と書いておられた。

:だから昔は、学問の世界はラテン語が共通語だった、って言うよね。

小田嶋:誰にとっても日常言語じゃない言葉を学問の世界の共通語にしていたから、ある平等性が保たれていたんだよね。でも今は、英語国民で教養のないやつと、素晴らしく教養のある非英語国民が論争をすると、後者が前者に負けるという不愉快なことが起きて。

金融とITが顕著ですよね。

「英語を使わないでおもしろいことをやる」のが、ガラパゴスの使命

小田嶋:生物学者の福岡伸一さんが、どこかの学会に行ってきた帰りに内田先生に語った話らしいんだけど、その学会で会長が最初にした演説が、「この学会の公式言語は英語ではありません。プアイングリッシュです」というのだったんだってね。それを聞いたときは、いいなあ、と思いましたね。

会長の高い教養を感じますね。

:片や広告の国際コンクールも、公式語は英語だから、僕なんかが呼ばれて行っても、まったく太刀打ちできないんだよね。だから、僕自身は一言も話さないで、通訳に付いてもらう。そうやって審査会に臨んでいるのって、僕しかいなかったけど、その方がまだしも戦えるわけよ。

自分でプアに語るよりも。

:何か事情があってしゃべれないんだな、この人、みたいになっている方がさ。

小田嶋:「それ、こういうこと、違う、です」なんて言っちゃうわけだから。

:それはないでしょ、さすがに。

小田嶋:いや、そうなのよ。俺は2000年にインドで30カ国ぐらいのジャーナリストが集まる何とかに会議に、ジャーナリストでもないのに出たことがあって、「ぼくは分かりまちぇん」とか、5歳児の英語で言ってた。

でも小田嶋さんは、それぐらいの方が可愛がられるかもしれませんね。

小田嶋:とんでもない子供扱いを受けた。

:じゃあ、世界で英語国民と戦うような英語を身に付ける時間はあるかと言うと、僕らにはもうないわけですよね、もはや。

どうしたらいいのでしょうか。

小田嶋:だからネットの中に非英語の何かを作る責任が、日本人にはあるということですよ。

:『日本辺境論』の中で内田樹さんが言っていたけどさ、戦わなきゃいいんじゃないか、って俺も思うんだよ。もう広告も、そういう海外コンクールなんかには出さない。だって別にフランスでオンエアされてないのに、何でカンヌで賞を獲ったとか、獲らなかったとかが話題になるのか、よく分からない。

言われてみればそうですね。

小田嶋:だったら、ガラパゴスで生きようぜ、と。

:テレビ番組で孫さんが、「私は日本を世界で勝つ国にできる」なんて力説しているけれども、別に勝たなくたっていいよ、という視点だってあるはずだ。

小田嶋:ゴーイング・ガラパゴス、オーケー、オーケー、ガラパゴスでいいんじゃない、ってね。

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