中島監督は「嫌われ松子の一生」の監督ですね。

:そう、「嫌われ松子」の監督。「ダイハツ・ミラパルコ」の監督でもありますけどね(笑)。だから、僕は中島哲也に対してちょっと特殊な感情で見ているから、中立的な観客ではない。それで、「悪人」は舞台が佐賀なんですよね。

小田嶋:ああ、そうね。岡の生まれた県ね。

:それで、妻夫木君の役が住んでいる家は長崎の貧しい漁港にあるという設定でしょう。深津さんは佐賀の紳士服量販店の店員という役柄でしょう。佐賀というところで思わず感情移入しちゃうんだよ。

注・お2人の会話は役名ではなく俳優名で行っています。妻夫木聡が演じる土木作業員の「清水祐一」は母に捨てられ、祖母と暮している孤独な青年。深津絵里が演じる「馬込光代」も、妹と2人暮しのアパートと職場を往復するだけの孤独な女性。出会い系サイトで祐一と知りあった光代は、殺人を犯した祐一とともに逃避行に走る。

小田嶋:俺はあの映画は、脇役はよく映されていると思ったね。脇役というか、メインストーリーとは関係ないところのディテールみたいなものは面白いなと思ったけど、とにかく見ていてつらかったのは、これも嫌なやつしか出てこない。

:うん。

なぜそこで彼女を救うのか

小田嶋:「悪人」は、殺された女の子も全然かわいそうじゃない。

:満島ひかりの役。満島ひかりは断然うまいと思った。だって殺されても仕方がないような嫌な女を本気で演じているもんね。だからこの映画の一番の問題はさ、妻夫木君が悪人じゃないということだよ。

小田嶋:そうそう。妻夫木君は、深津絵里と出会って、ぽろぽろ泣きだして情けない野郎になっちゃってからはハマっているのよ。だけどその前の、金髪の解体工のちょっと乱暴な感じ、改造車に乗っているドキュンな感じが全然しないのだよ。あれ、スカイラインGT-Rに変な羽根を付けて乗っていて、マニュアルミッションでこんなになって運転しているやつでしょう。だったらやっぱり松田翔太ぐらいじゃないと。

:あと、中村獅童とか。

小田嶋:それと、もっと根本的なところで、妻夫木君が満島ひかりを殺す必然性が、俺は分からなかった。

注・満島ひかりが演じる「石橋佳乃」は、金持ちの息子(=岡田将生が演じる「増尾圭吾」)にアプローチして、彼の車に乗り込むが、増尾クンに見下され、暗い山道の途中で車からたたき出される。そこに佳乃からデートをすっぽかされ、車で追いかけてきた祐一(=妻夫木聡)がやって来て、彼女を救おうとするが、佳乃は祐一に感謝するどころか、罵倒の限りを尽くし、挙句の果てに「レイプされたと訴えてやるっ」とまで言い放つ。

:だからあれは腹いせで、満島の罵倒というのは自己嫌悪でもあるんだよ。自分に向かった怒りが妻夫木にも向かっているという。

小田嶋:だけど、だからって殺しちゃうのか、というのが俺の違和感だった。きっと妻夫木君が人を殺しそうなやつに見えないからなんだろうけど、でも、もう少し、そこの殺さざるを得ないところ、あるいは偶然殺しちゃうのでもいいけれども、そこのところをちゃんと描いてくれないと、殺した後の深津絵里との逃避行が生きてこない感があるのよね。

:妻夫木君の行動だけど、普通はあれ、車でそのまま通り過ぎて終わりだよね、さようなら、と(笑)。

小田嶋:妻夫木君は、その前に満島とのデートの約束を面前ですっぽかされているわけだ。だから普通なら、ざまあみろだよね。

:俺だったら、もうどう考えたって、通り過ぎるな、と思うんだけど。

小田嶋:通り過ぎるよね。クラクションぐらい鳴らすだろうけど(笑)。

でも、通り過ぎたら映画にならないですよね。

次ページ テレビへの「どうだ」で過激化する映画