小田嶋:いいとか悪いとか、面白いとか面白くないとかじゃなくて、とにかく暗い。岡がこういうのを観ているというのは、もしかして何か抱えているものがあるのだろうか。その、投影しているところのものがあるんだとしたら、俺は心配だよ、という感じがしたね。
岡:いや、まず大きく言うと、「最後の忠臣蔵」の役所広司さんは大和ハウスのCMで、ずっと一緒にやっているじゃないですか。
小田嶋:ああ。
岡:役所さんは僕たちと同い年なんだけどね、ダイワマンのコスチュームをかぶりながら、「まずいですよ、このままだと僕の代表作はこれになっちゃいますよ」とか言っていて、面白い人なのよ。
小田嶋:同い年なんだ。
岡:だからこう、スターとやっているというよりも、よりスタッフ的な関係になっちゃっていて、だったら役所さんの出ているものは見なくちゃいけないでしょう。それと「悪人」の妻夫木聡君と深津絵里さんもCMでご縁がある。深津さんは大和ハウスでリリー・フランキーさんと一緒に夫婦物をやってもらっているし、妻夫木君はサッポロビール黒ラベルの「大人エレベーター」で一緒なの。だから「最後の忠臣蔵」と「悪人」は、観なくちゃいけない映画だったわけです。

最後の「告白」に至っては、僕、CMプランナーとして300本ぐらいCMを作っているんですけど、そのうちの100本は映画監督の中島哲也と作っているんですよ。彼は僕にとって一番多く組んだディレクターですし、たぶん中島にとっても、僕が一番多く組んだプランナーだったはずです。だから中島の仕事というのは見届けたいと思うんですよ。
小田嶋:その監督さんが撮った映画なの? 「告白」って。
岡:そう、中島哲也が撮ったものなんです。それと、確かにどれも暗いんだけど、映画に対して広告って明るいじゃないですか。ダイワマンにしても、大人エレベーターにしても、リクシルにしても、ドコモにしても全部、読後感のいいもの、爽やかなものですよね。で、そういうものに辟易としてくるということはあるんだよ。
小田嶋:なるほど。
岡:うん。30年以上も広告屋をやっていたら、自分でも広告屋にふさわしい明るい振る舞いが身に付いちゃって、本当はもっと鬱々としたものがあったとしても、なかなかそうは振る舞わなくなる。そうなると、映画ぐらい暗いのを観たいな、と。そういう気分と合致した3作なんです。
小田嶋:重い読後感みたいなものを味わって帰る感じの帰り道、みたいな。
岡:一言では言えないよ、みたいな。黙りこくっちゃうよ、みたいな。だから日常の中で僕に欠けているものだと思いますね。
イヤなやつ、全員集合
小田嶋:岡は昔から、本人は暗いという感じじゃないけど、暗いのが好きだよね、ずっと。
岡:太宰治以来。小津安二郎も好きだしね。だから明るいものが好きじゃない。でも、同じ暗いにしても「告白」は明らかにちょっと違う暗さで、日本映画を変えていると思うんです。実は最初に見たときは、あまりいい気分はしなかったんですよ。出てくる人たちが、みんなイヤなやつだし、この映画を見たからといってさ、何がどうなるというのはないし。

小田嶋:でも、今、話を聞いて「告白」については少し分かった気がする。この映画は主題がどうの、ストーリーがどうの、演技がどうの、ということを超えて、演出手法がすごくしゃれているでしょう。
岡:そうだね。
それ、メモに書いてありますね。
小田嶋:それ、メモに書いたんだけど、とにかく出てくるやつらみんながみんな中二病で、観ているとアタマにくるけど、音楽の挿入の仕方とか、映像の切り取り方とか、そういうのがいちいちカッコいいから、最後まで見せちゃうところはあるという。そこはやっぱりCMで鍛えられた監督ならではなんだよ。だから原作がもう少し切ない程度の軽いやつで、脚本がもう少しいいものであれば、すごくいい映画になったんじゃないか。
岡:そうなったら、もはや違う映画じゃないか。
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