小田嶋:実際、早稲田の日本史なんか受けると、そういうところが出るのよ。合格者のボーダーラインが、確か全体の50%か55%ぐらいなわけだから、ということは、あそこの大学に入るやつが50点しか取れないという問題が高校の中間試験で出るってことだ。

:どれだけ難しいかだよね。

その設問は本質的なものなんですか。

小田嶋:いや、本質的なんかじゃない。

:本質的であるわけがない。

小田嶋:何十万人という受験生を振り分けるためには、それぐらいの難問にしておかないと大変だ、みんなが100点を取ったら分けようがない、みたいなことで作られている問題なわけだから。

:教科書の欄外とかヘンな参考書、ないしは図書館でそれに代わるちょっと変わった本を読んで、忘れないでいるとかしないと、高得点が取れないという。

……それって、逆にばかなんじゃないですか?

:本当、そうなのよ。

小田嶋:受験の時に点をたくさん取れるやつが立派なやつなのか、というと、これは非常に疑問があるんだよ。

:今度、また入試制度が変わるって言っているでしょう。

「人間力」とは「俺に似たヤツ」である

小田嶋:あれ、大変だよね。しかも「人間力を見る」なんて言い出しているでしょう。

:誰が人間力を見るんだよ。

小田嶋:設問が本質的かどうかは別にして、全員同じ問題を解くという入試のやり方は、そこでみんながいったん一律に並べられるわけだから、合格不合格の線は明瞭に引くことができる。でも、そこに「人間力」なんて入れられたら、たまったもんじゃないよね。

:人間力は反対だね。だいたい人間力を測るやつの人間力はどうなっているんだ。

小田嶋:そうですよ。

:そいつの限界を超えた優秀なやつは、「あれっ?」となっちゃって、判断できないわけでしょう。

小田嶋:選ぶ側の人間の価値基準を内面化した人間、要するに「俺に似たやつ」を選ぶよね。

:あるいは欲望の顕在化というか、自分の中にある欲望を具現化しているやつ、というのが優秀だ、ということになる。気持ち悪いよね。

小田嶋:言うことを聞きそうなやつ、逆らわないやつ、予想が付くやつ。

:就職試験もそうだけど、結局、肝心なのは、受けるやつじゃなく、見るやつじゃないか。

小田嶋:企業なら、うちの会社に向いている人ということはある。居酒屋チェーンに入るやつと、商社に入るやつは、それなりに違ってくるだろう。でも、大学はそうやっちゃまずいでしょう。

小田嶋さんのおっしゃる通りだと思います。

小田嶋:え。

:珍しいね、今の清野さんの同意は(笑)。

いえ、まったく小田嶋さんのおっしゃる通りです。

小田嶋:……。(突っ込みではない反応に虚を突かれ、言葉を失う小田嶋隆)

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