:小田嶋や僕は中学で1番で来ているんだけど、文京区のやつらは10番ぐらいの位置から来ているんだよね。だから、学力的なバックグラウンドは、区によって大きな差があるわけだよ。僕たちにしても、文京区出身のやつらには、何となく引け目を感じてた。

小田嶋:で、ここに「地頭」という概念を、新たなパラメーターとして持ち込むことになるんだよ(笑)。

テストの点じゃなく、地頭だ、と。

:地頭は、テストでも内申でも、証明できない。

小田嶋:証明不能な概念を持ち込むと、文京区のやつらは、入ってきた時点では全然できはいい、と。しかし、あいつらは中学校で10番じゃん。俺は2番とか1番だったわけじゃん。ということは、地頭は俺の方がいいんじゃないか――ということがあり得たりするわけだ。

:ただ、高校入学時の学力って、ものすごく差はあるんだけど、3年の間にだんだん練れてくるんだよね。

小田嶋:文京区から来たAみたいなやつも初め、「うわあ、北、板橋、豊島のやつって、できねえ!」と驚いているんだけど、だんだん自分もできなくなってくる。

:そうそう。できない方が人として面白いからね。

小田嶋:A君のようなやつは、「そうか、人生には、『できない』という生き方があったんだ」と、高校生になって初めて発見するんだよ。

:それで安心してしまうんだよね(笑)。

小田嶋:ああ、こういう知的でかつ楽な生き方があったんだ、ということで、ずるずるずるっと。

Aさんは今、どうしているんですか。

:いや、詳しくは知らないけど、東大を出て、いい会社に入ったはずだよ。でも、あまりエラくなってはいないはずだけど。

小田嶋:A君も、いまや立派な普通のおやじですよ。

同窓会に来なくなったあいつ

:10代だったみんなが、その後どうなる、というのは、何か悲しいものがあるよね。それは小田嶋も僕も含めて、すべての人がそうなのよ。同窓会もそうだよね。みんな、はげたり、理由ありだったり、いろいろで(笑)。

小田嶋:まあ、同窓会に来ているやつは、それでもどうってことはない。

:小石川の場合、3年連続最下位だった小田嶋が、こんなに有名になったという下克上が起きているんだけどね(笑)。

小田嶋:まあ、来ていないやつの話題が一番切ない。

小石川高校における、来られない方というのは、どんな感じの人生なんですか。

小田嶋:来られないやつの話はしにくいよ。一番多いのが、死んでしまっている場合。

うーん。人生の諸問題が、いよいよ身に迫ってきましたね。

:だからそれはもう、「諸問題」じゃなくて、あきらかに「問題」だよね。

階段

(→小石川放浪編、続きます。)

(「人生の諸問題 令和リターンズ」はこちら 再公開記事のリストはこちらの記事の最後のページにございます)


「人生の諸問題」は4冊の単行本になっています。刊行順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』(以上講談社刊)『人生の諸問題 五十路越え』(弊社刊)

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「もう一度読みたい」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。