「この裏門を抜けて雀荘に…」と思い出を語るお2人

:それはですね、小石川高校の理想と関係してくる。小石川というのは、日比谷高校のカウンターとして生まれているので、だから官僚というよりも科学者を育成したい、みたいなのがどこかにあったんです。

小田嶋:その理想が本当に実現できていたかどうかはともかく、学校の掲げていたキャッチフレーズとしては存在していた。日比谷、立川、両国という旧制の東京府立一中から三中までは、完璧なエリート養成機関ということで作ったんだよね。でも小石川は旧府立五中で、三中から五中の間にすごい時間がたっていた。五中ができた時は、大正デモクラシーの時代になっていたから、制服も学ランじゃなくてブレザーだったりとか、校風も官僚養成的じゃなく自由な校風だったりで、校長も民間から招かれたりしていた。

:だから僕らが入った時は、実は東工大に一番受かる学校だったんですね。あと、小石川教養主義なんて言っていたんです。

東洋文庫を知らなかったのに?

岡・小田嶋:う。

創立の理想は、授業に反映されていたんですか。

:反映されていないけど、何となくムードとしてはあったんですよ。俺ら、優秀だけど、官僚にはならないよね、というような。

小田嶋:3年間、クラス分けをしないこととか、体育祭が半年にわたって続くこととか、そういう独特のやり方はありましたよね。例えば授業も理系と文系を分けて、受験科目別に受験教育をする、みたいなことはまったくしなかった。だから私立文系を受ける俺が、3年生のくせに物理を取っていたりするわけ。

オフィシャルサイトと見ると、今でも「『小石川教養主義』の伝統を引き継ぎ、全ての教科・科目を学ぶことによって、単に受験のためではない『教養』を」って、書いてあります。

:すごいでしょう。そういう考え方が、伝統にあったわけですよ。もう一生見ないんだけど、物理とか化学とかいうものが、3年まで結構あったんだよね。

小田嶋:結局、モノにはならないんだけど、そういう風に、自分たちは受験のために勉強しているんじゃないんだよ、というマインドセッティングを最初にさせられたの。

「役に立たないのが学問」「あ、なるほど」

小田嶋:それで、すべての先生がそうじゃないんだけど、名物教師と言われる何人かの先生が、「うちの生徒はみんな東大に行くんだから、高校時代には伸び伸びやりなさい」みたいに言うわけ。

:そんなわけないんだけど。

小田嶋:「地学を受験で取る子は、もちろんいないだろうし、何の役に立つんだと思うかもしれないけど、役に立たないのが学問だよ」みたいなことを吹き込むわけだよ。そうすると、「なるほどな」とか思うわけだよ。

:地学、取ったけどね。

小田嶋:取った、取った。取るも取らないも必修ですから。地学、民社、政経全部必修ですよ。

:あ、そうか(笑)。ただ、国立を受ける分には非常にいいんですよ。国立は全教科をやるから。

小田嶋:その代わり、と言っちゃ何だけど、「うちは小石川教養主義だから全科目やるんだよ」という前提の現実的な落としどころとして、「物理は出席は取らないよ」ということになるわけ。となると生徒としては、「出席を取らない授業は出ないよ」ということになるでしょう。そうやって、生徒のくせに、出る授業と出ない授業を使い分けている高校生が出来上がるわけ。これが教養なのかというと……。

:ちょっと違うな(笑)。それで、その出ない授業が2時間続いちゃったりしたら、3時間ぐらい空いちゃうわけじゃない。そこで裏門から校舎を出て、出ると目の前に雀荘がある、ということになるわけ。

筋道がさーっとつながりました。

(→次回に続きます。)

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