(外に出て、裏手となる六義園にてくてく向かう)

六義園沿いを歩く

:気分を変えたい先生が、ここでホームルームをしたりしていたのよ。その辺を走り回っている小学生を、「ちょっとどいてね」と、どかしたりしながら。

小田嶋:今は小学生、全然いないね。周りも高い塀が張り巡らされて。

:今、ここに入るのに入場料がいるんだね。

一般は300円で、小学生と、都内在住・在学の中学生は無料です。

:ここはね、昔はたばこ吸い放題だった。

小田嶋:何かあるとここに来るというのは、田舎の高校生にとっての裏山みたいなところだったんだよ。

:今の小石川高校の子はもう来ないのかな。

小田嶋:来るには来るんじゃないだろうか。

:来るには来るだろうけど、高校生は有料でしょう。俺たちは、タダだから来ていたんだよ。

小田嶋:それはそうだ。300円って高校生には、ちょっときつい。

:だって当時、ハイライトが80円だったでしょう。マッチが10円だったでしょう。100円でお釣りが来ていたんだよ。

小田嶋:10円で都々逸マッチを売ってたよね。俺、集めてたよ、あのシリーズ。「五つ六つから『いろは』を覚え、『は』の字忘れていろばかり」「声を枯らして鳴くセミよりも、鳴かぬホタルが身を焦がす」とかね、ちょっと粋なやつを、覚えているもん。

さすが小田嶋さん。どうでもいいことをちゃんと細部まで。

:お前、よくそんなもの、覚えているな。だいたい庭園だって、もっと荒れていたよね。

小田嶋:結構荒れていました。やっぱりお金を取るようになってから、手が入るようになったのかな。

京都よりも、六義園の勝ち

:ここのコイ、でかいな。

小田嶋:カメも結構いるよ。

:何か急いでいるね、カメのわりには。

小田嶋:せわしない生き方をしているね。

入園料300円は別にしても、都心部でこれだけ整備された庭園は、なかなかないのではないでしょうか。いい眺めです。

小田嶋:緑は昔から深かったです。だからここは、基本的にとても立派な庭園なのよ。江戸時代に柳沢吉保が、教養の限りを尽くして作った庭園なんだから。柳沢って、今で言う官房長官みたいな役割でしょう。

:そんなもんじゃなくて、もっともっと偉いよ。庶民とは無縁の存在。ここは緑の深さもそうだけど、そこにある大木の樹齢も、何百年とかいってそうだね。

小田嶋:それこそ元禄時代に、柳沢吉保も見ていたかもね。修学旅行で京都だとかあの辺に行った時、だいたいのところで俺は、「六義園の勝ちだな」と思っていたし。

:そうそう、僕もそう思っていたよ。

金閣寺よりも?

小田嶋:いや、俺らのフランチャイズの方が上だ、と。

:だって、あの池のほとりあたりに金閣が建っていればいいんでしょう。それで、ほぼ完璧だよね。

小田嶋:金沢の兼六園、水戸の偕楽園、岡山の後楽園よりも、もちろんいい。

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