本記事は2014年2月4日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

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吉田 望(よしだ・のぞむ)
1956年東京都生まれ。東京大学工学部卒業。慶応義塾大学大学院経営学修士。1980年、電通に入社。電通総研研究部長、電通ドットコム取締役などを経て2000年に退社。ブランド・コンサルタント「nozomu.net」を設立。ウェブ制作会社「concent」取締役。アカウントプランニングの専門会社「takibi」取締役。「transcosmos」社外取締役。朝日ネット監査役。著書に『ブランド』『ブランドII』『会社は誰のものか』など。(写真:大槻純一、以下同)

吉田:僕はクライアントと広告制作者は、ある程度長いつきあいが必要だと思っています。といっても、それは5年か10年のレベルだと思うだけど。

:それは絶対必要なことですね。

吉田:仕事が継続すれば、広告に関わる僕らには、考える時間というものができる。

:11年前に吉田と『ブランド』(2003年)という本を書いたときと、今と比較して、明らかに違うのは、広告ビジネスが今は冷たいビジネスになっていることですよ。広告にしても、クライアントと僕たち制作者の関係にしても、以前はもっと温かいものだったんですよ。

吉田:今は、どっちかっていうと、ぎすぎすと敵意が忍び寄るものになってきている(笑)。

:そういう関係になりつつあるんです。その一例に、競合が多いことがありますよね。

競合とは?

:制作サイドを何者か集めて、アイディアを競わせる。だから僕らにとって競合相手は敵になるし、クライアントはそれを選ぶ者、僕らは選ばれる者に分かれる。

 それは、何かいいものを一緒に作ろう、というスタンスとはまるで違うものです。で、競合して、多数決で意見を聞いた結論の方が「科学的なんだ」ということになっちゃっう。そこにはもう、温かいものは生まれないんだよね。それは、クライアントにとっても、広告制作者にとっても、いいことではないと思うんですよ。

その変化は、いつぐらいから、より顕著になってきましたか。

:いつ、というはっきりした節目はないんだけれど、この10年で明らかに変わってきました。

ゼロ年代を支配する、冷たい方程式

1990年代が終わり、2000年代が始まった。そのゼロ年代の変化でしょうか。

:90年代は失われた10年と言われるけど、それに続くゼロ年代に較べれば、まだましな10年でしたよ。

吉田:とはいえ、やっぱり景気が悪かったので、広告費を使っても成功する確率が基本的に低い時期だったし、そこで企業は次の失敗は許されない、みたいな、すごいプレッシャーにさらされていた。経済が右肩上がりの時期は、そこそこでやっていても当たる、という楽観思想が機能していたんだけど、広告からそれがどんどんなくなってきて、とりわけゼロ年代以降は殺伐としたものになってきたよね。

:社会全体の景気は広告にもろ反映しますね。そんなときは温かくなんてできないよ、と。

 それと、広告代理店のビジネスモデルに対して、クライアントの熱が冷めたということもあると思うんですよ。だって広告って、結局、誰も責任を取らないから。そういう構図が分かってしまうと、「制作する側は、リスクがないじゃん、何だよ」というふうになる。これが冷たさのベースにあるわけです。

吉田:売れても売れなくても、制作側は関係ないからね。

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